「ゼロの使い魔」二次創作短編(ifもの)
(2012年 8月 投稿分)

『ふたりは最高! ギーシュ&マリコルヌ』
もしも「ふたりはプリキュア」シリーズみたいな世界だったら
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『ふたりは最高! ギーシュ&マリコルヌ』

 第一話「一難去ってまた一難!? ありえない生き物を召喚しちゃった!」


「我が名はギーシュ・ド・グラモン。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし『使い魔』を召喚せよ」

 トリステイン魔法学院では、春恒例 、使い魔召喚の儀式が行われていた。
 このような神聖な儀式の日であっても、ちょっと派手なフリル付きシャツを着た少年、『青銅』のギーシュ。彼の『サモン・サーヴァント』に応じて、白く光るゲートから現れたのは......。

 ポコッ!

「いてっ!」

 勢いよく飛び出してきたそれは、思いっきりギーシュの額に激突。召喚主であるギーシュを、その場に転倒させた。
 周りの少年少女が、ドッと笑い声を上げる。

「恥ずかしい姿をお見せしたね......」

 適当に取り繕いながら、ギーシュは優雅に立ち上がり、自分が召喚したものをジッと覗き込んだ。
 それは一見すると、まぶしく輝く光の球。だがその輝きが収まるにつれて、姿カタチもハッキリとしてくる。
 黄色くて柔らかそうな、ふにふにした生き物だった。手足は短く、尻尾の先は星形になっている。何やら喚いているようだが......。

「めぽ! めぽ!」

 奇妙な鳴き声だ。こんな生き物、ギーシュは今まで見たことがない。
 彼は土のメイジなので、土に潜る生き物を召喚するような気がしていたのに......。予想は大外れだったらしい。

「ミスタ・コルベール。これは......いったい何なのでしょうか?」

「さあ? 私にもサッパリ......」

 監督していた教師のコルベールに尋ねてみたが、彼にもわからないらしい。

「ギーシュが珍獣を召喚したぞ!」

 友だちである『風上』のマリコルヌが囃し立てるが、相手している場合でもなかった。

「それより、儀式を続けなさい」

 コルベールに促されるまま、ギーシュは謎の生物と契約すると、

「......ヴェルダンデ......。そうだ、君の名前は今日からヴェルダンデだ!」

「めぽ? ......めぽ! めぽ!」

「そうか、そうか。喜んでくれたのか。僕も嬉しいよ、ヴェルダンデ!」

 いや『ヴェルダンデ』の表情を見るかぎり、むしろ嫌がっているようなのだが。
 そうしてギーシュが使い魔ヴェルダンデと触れ合っている傍らで。

「我が名はマリコルヌ・ド・グランドプレ。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし『使い魔』を召喚せよ」

 マリコルヌの召喚に応じてやってきたのは......。

「みぽ! みぽ!」

 ヴェルダンデと同種族らしい生き物だった。
 ただし若干の違いはあって、たとえば体の色は、ほとんど白色といってもいいくらいの薄桃色。また、耳も長く、だらんと垂れている。尻尾の先は、こちらはハート型。

「おお、マリコルヌ! ヴェルダンデの友だちを召喚してくれたのだね!」

「......」

 ギーシュは喜んでいるようだが、当のマリコルヌは、むしろガックリと肩を落としていた。彼は風のメイジなので、風にのって空をゆくような使い魔を期待していたのだ。
 だが、気落ちしたままでは何も始まらない。ともかくマリコルヌは契約の儀を済ませ、おのれの使い魔に『クヴァーシル』という名前を与えた。

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「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」

「さすがはゼロのルイズだ!」

 最後にルイズが呼び出したのは、ギーシュのヴェルダンデやマリコルヌのクヴァーシル以上におかしな生き物だった。
 なんと人間の少年だったのである。

「古今東西、人を使い魔にした例はないが......」

 コルベールは頭が痛い。見たことがない生き物が出てきたり、人間が出てきたり。今年はハプニングだらけである。

「......彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」

 それでもルイズを説得して、最終的にはルイズも彼の言葉に応じた。
 呼び出された少年の左手にルーンが刻まれ、コルベールは、ふとそれが気になった。

「珍しいルーンだな」

 その形状を頭の片隅に留めておく。
 ともかく。
 ようやく、これで今年の使い魔召喚の儀式は終了したのだ。

「さてと、じゃあ皆教室に......」

 戻るぞ、と言いかけて。
 彼は強烈な睡魔に襲われた。
 ......突然ここで眠くなるほど疲労が蓄積しているわけはない。これは何かおかしい......。
 そう思いつつ、コルベールは、その場に倒れてしまう。
 いや。
 コルベールだけではなかった。次から次へと、だだっ広い草原に生徒たちが倒れてゆく。

「なんだ!? 何か起こったんだ!?」

「僕にはわからないよ、まったく」

 結局、残ったのはギーシュとマリコルヌの二人だけ。
 謎の生き物を召喚してしまうというトラブルに続いて、また何らかのトラブルが起こったに違いない。まさに、一難去ってまた一難、である。
 思わず二人が顔を見合わせた時。

「......眠ってもらったのさ。お前たちを見つけだすためにね......」

 突如、謎の女性が現れた。

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「私の力を浴びても眠らずにいられるということは......お前たちがそうなのだろう? ついに見つけたぞ......」

 美しい透き通るような金髪に、これまた澄んだ垂れ気味の碧眼。とんでもない美少女にしか見えないし、その上、どこかの水軍の士官服らしきものは体にぴったりとフィットして、色っぽい起伏を明らかにしていた。
 いつものギーシュならば、真っ先に口説き始めていたかもしれない。だが、彼の心のうちに、生来の女好きを妨げる何かがあった。
 ......冷たい何かに彩られた、澄んだ瞳。氷のように動かない、彼女の表情。そうした冷酷さに、彼は危険を感じたのであろうか?
 それとも、現在の状況の異常さが、彼の心にストップをかけているのであろうか?
 いや、それだけではない。

「......エ、エルフ......」

 隣でマリコルヌがつぶいたように。
 目の前の女性には、特異な形状をした耳があった。彼女は人間ではなかったのだ!
 エルフ! 忌み嫌われ、怖れられた存在!
 長命と尖った耳と独特の文化を持ち、そのすべてが強力な魔法使いであるとも優秀な戦士であるとも言われている種族である。
 ただし、はるか東方に住んでいるため、ここトリステインで見かけることなど、それこそありえないはずなのだが......。

「エルフが......なぜここに......?」

「『我ら砂漠の民、鉄の如し血の団結でもって、西威を殲滅せんとす。大いなる意志よ、我らを導き給え』......これが党是だ」

 女エルフは冷たく告げる。

「だから私は、蛮人たちを皆殺しにする上で障害となる存在......つまりお前たちを抹殺しに来たのだ!」

「な、なぜ僕たちが......」

「ひ、人違いではないかね......?」

 怯えながらも、マリコルヌとギーシュが反論を試みた時。

「闇の力を感じるめぽ! 彼女は闇の力に冒されてるめぽ!」

「変身して戦うみぽ! 早く『へんきゅあ』に変身するみぽ!」

 ヴェルダンデとクヴァーシルが、人間の言葉でしゃべり始めた。
 契約することで使い魔は特殊能力を得ることがあるため、動物が話せるようになった事例は過去にもある。だが現在この二匹が言っている内容は、ギーシュとマリコルヌを困惑させるばかり。

「変身......?」

「へんきゅあ......?」

「『へんきゅあ』は光のメイジみぽ!」

「ヘンタイでキュアキュアなメイジめぽ!」

 そう言われても、わけがわからない。
 一方。

「ふっ......。そこに光の妖精がいるということは......やはりお前たちが光の戦士ではないか!」

 女エルフが腰のサーベルを抜く。
 いよいよ危ない。

「......どうする?」

「やろう!」

 二人は顔を見合わせ、小さく頷きあう。
 こうなったら、一か八か、使い魔の言葉に従うしかない。

「二人で手をつないで『デュアル・ヘンタイ・ウェーブ』と叫ぶめぽ!」

 男同士で手を繋ぐなど、気が進まないが。
 手と手つなげば、エナジーが伝わり、ハートもリンクする。
 うなずく笑顔で、不可能が可能となる。
 空いた方の手を大空に掲げ、使い魔から教えられたとおりに叫ぶと......。

「なんだ、この光は!?」

 二人の目の前で、思わずあとずさりする女エルフ。
 天空からの光のシャワーで、ギーシュとマリコルヌが、虹色の輝きに包まれたのだ。
 そして。
 その光が収まった時......。

「未来を照らす花開く大地のメイジ、ギーシュ・ザ・マックス・ハート!」

「羽ばたく空に勇気を運ぶ風のメイジ、マリコルヌ・ザ・スプラッシュ・スター!」

 今ここに。
 光のメイジ『へんきゅあ』が誕生した!

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 第二話「闇に狙われた光! ピンチを乗り越えるたび、強く近く!」


「二人は『へんきゅあ』! ......って、何言っちゃってるの、僕!?」

「ふむ。台詞はともかく......。この格好は気に入ったよ、うん。特に襟の部分がいい感じだね」

 とまどうマリコルヌとは対照的に、ギーシュは、それなりに満足しているようだ。
 そう。
 変身と同時に、二人とも外見が変化していた。
 マントやシャツやズボンには、いつものギーシュのシャツのフリルなんてメじゃないくらいの装飾が加わっている。ひらひらとした、見ようによっては女の子っぽい飾りだ。首周りは襟が立った状態となり、これをギーシュは「鎧みたいでカッコイイ」と感じたらしい。
 変化は服装だけではない。ギーシュの金髪の巻き毛は、青紫色の長髪となっていた。髪質は少し素直になったが、それでもウェーブがかかった感じ。左右のサイドで、それぞれ青い薔薇の髪飾りで束ねられていた。
 一方、マリコルヌは、前髪だけが延びて両脇に垂れ、残りは後方へと逆立っていた。色は、限りなく赤に近い橙色だ。
 ......だが二人とも、自分たちの姿に見とれている場合ではなかった。

「光の戦士めっ!」

 目の前の女エルフが、サーベルを引き抜いて迫ってきたのだ。
 ギーシュとマリコルヌは、とっさに後方へと跳ぶ。
 その瞬間。

「こ、これは!?」

 その跳躍力に、自分で驚く二人。
 体が羽のように軽い。跳ぶどころか、まるで飛べそうだ。
 不思議だ。体術なんか苦手だったはずなのに。

「すごいよ! 僕、なんか凄いものになっちゃってるよ!」

「これが......光のメイジの力なのか?」

「そのとおりめぽ! 変身することで身体能力が飛躍的に向上してるめぽ!」

 いまだ状況を把握しきれていない二人に、アドバイスを送る使い魔。
 それを見て、

「ならば!」

 斬撃をかわされた女エルフが、その手に闇の力を集め始める。

「......この地を漂いし闇の精霊よ。我の呼びかけに応じて、このものに力を分け与えたまえ......」

 女エルフが腕を振ると、黒い光が足もとの草原へ。ボコッと草原の一部が盛り上がり......。

「ネ〜フテ〜ス」

 奇妙な鳴き声でわめく、恐ろしい怪物と化す! 闇の力が憑依して、怪物『ねふてす』になってしまったのだ。

「うわっ! こ、今度は何だ......!?」

「マリコルヌ。とにかく倒そうではないか!」

 アップした身体能力を試すには、良い機会だ。
 二人同時にダッと地面を蹴り、一気に間合いを詰めると、さっそく肉弾戦を始める。
 ギーシュはパンチやキックを連続で叩き込み、マリコルヌは丸い体を活かして回し蹴りを。
 だが......『ねふてす』には通用しない!

「そんなんじゃダメめぽ! 闇の力を浄化しないといけないめぽ!」

「必殺技を使うみぽ!」

 またもや使い魔のアドバイスが飛ぶ。

「......必殺技?」

 何か嫌な予感がする......とマリコルヌが思ったのも束の間。
 本人の意志とは半ば無関係に、ギーシュの口から、必殺技発動のための決めゼリフが飛び出していた。

「邪悪な力を包み込む、真っ赤なバラを咲かせよう! ブラッディ・ローズ・ブリザード!」

「ギーシュ......。今の君のイメージカラーは、赤じゃないと思うんだけど......?」

 マリコルヌのツッコミは、ギーシュには届かない。 
 ギーシュの杖の先から、赤い薔薇の花吹雪が出現。あわさって一つの大きな薔薇の花と化し、怪物『ねふてす』に襲いかかった。

「ネ〜フテ〜ス〜!」 

 まるで食虫植物に食われるかのように。
 赤い薔薇に包まれた怪物は、断末魔の叫びとともに浄化されて、もとの草原に戻った。

「......くっ! 今日のところは......挨拶だけだ!」

 敗北を察した女エルフが、捨てゼリフを残して、引きあげていく......。

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「ミスタ・コルベール、起きてください。こんなところで寝ていると、風邪をひきますよ」

「う......うーん......」

 ギーシュに助け起こされ、目を覚ますコルベール。
 ......そうだ。使い魔召喚の儀式が終了すると同時に、強烈な睡魔に襲われ......。
 状況を思い出したコルベールは、周囲に気を配る。
 他にも寝ていた生徒がいるようだが、そちらはマリコルヌが起こしてまわっていた。

「さあ、戻りましょう」

「......そうだね」

 いくらドッと疲れたとはいえ、みんなが同時に眠くなったというのは、おかしな話だ。何か異変が起きたのかもしれないが、この様子では、すでに片づいたのだろう。
 それよりも、コルベールには、もっと気になることがあった。
 ルイズが契約した少年の左手に刻まれたルーン。あれは何だろう? 調べなければならない......。
 コルベールの頭は、もはやそちらでいっぱいになっており、不思議な睡魔のことなどケロッと忘れてしまうのであった。

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 その夜。
 ギーシュの部屋にマリコルヌがやって来た。
 二人揃ったところで、使い魔が説明する。

「僕たちは光の世界から来た妖精めぽ」

「妖精!? 妖精なら、僕に女の子を出してよ!」

 マリコルヌの言葉は無視して、二匹は説明を続ける。
 ヴェルダンデもクヴァーシルも、実はハルケギニアの生き物ではないのだという。
 人間の言葉を使えるのも、使い魔になったからではなく、実は元から喋れるけれど、黙っていただけなのだ。

「光の世界とか、妖精の存在とか、そういうのは秘密になってるみぽ」

「じゃあ、僕たちが『へんきゅあ』だということも......?」

「めちろんめぽ!」

 ちょっと残念そうなマリコルヌ。特殊な力で活躍したら、女の子にもモテるかもしれないのに......と思ったらしい。

「まあ、それはともかく......あのエルフは何なんだね? 君たちは『闇の力』がどうのこうの、と言っていたようだが......」

「そう、それめぽ! そのために僕たちは、この世界にやってきためぽ!」

 ギーシュに尋ねられ、ヴェルダンデが事情を説明する。
 もともと光と闇は表裏一体。闇の力がどこかの世界に悪影響を与えようとしたら、それを妨げるのは、光の力の務め。そうでないと世界のバランスが崩れて、大変なことになってしまう......。

「ふむ。では、あのエルフが物騒なことを言っていたのも......その闇の力とやらのせいなのかな?」

「そうに違いないめぽ!」

 いくらエルフが恐ろしい種族だとしても、今まで、こんな西まで攻めて来ることはなかったのだ。あのエルフだって、闇の力に操られて正気を失っているだけ......。
 そう思うと、少し彼女のことが不憫に思えてくる。外見だけは美人だったし、やはりギーシュは女好きなのだ。

「では......僕たちは、これからも『へんきゅあ』として戦えばいいのだね? みんなには内緒で」

「そのとおりめぽ!」

 最初のピンチは退けたが、まだ戦いは始まったばかり。
 ピンチを乗り越えるたび、二人の『へんきゅあ』としての力は強くなり、二人の仲も近くなるに違いない......。
 妖精たちは、そう思うのであった。

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 第三話「ぶっちゃけ早すぎの解散!? 生きてるんだから失敗もある!」


「なあ、ギーシュ! お前は今、誰とつきあっているんだよ!」

「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」

 その日、ギーシュは食堂で、友人に囲まれて冷やかされていた。
 適当に受け答えしていたら、ポケットから小壜が落ちた。敢えて無視していたら、ルイズの使い魔がやって来て指摘するので、周りの者たちも気づいてしまった。
 皆が大声で騒ぎ始める。......「モンモランシーの香水だ!」と。
 すると一人の少女がやってきて、彼の前で泣き始める。

「やはり、ミス・モンモランシーと......」

 これはマズイ。『モンモランシー』はファースト・ネームであってファミリー・ネームではないので『ミス・モンモランシ』と呼ぶべきだと思う。だが、そんな些細な点にこだわっている場合ではなかった。......というより、そんな些細な点にこだわろうとすること自体、現実逃避である。

「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい......」

 ギーシュの言い訳は通用しない。それどころか、今度はモンモランシーまで来てしまい、

「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」

「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで......」

 しどろもどろなギーシュだが、彼を責めたてるのは、二人の少女だけではなかった。

「ひどいよ、ギーシュ。二股かけるくらいなら、僕にも一人わけておくれよ。友だちじゃないか!」

 マリコルヌまでやって来たのだ。彼の場違いな発言に、モンモランシーもケティも気勢をそがれて一瞬黙り込むが......。彼は、さらなる爆弾発言を投下するのであった。

「それに......ラ・ロシェールの森は、僕たち二人の秘密の場所じゃないか!」

 ざわざわ。
 周囲の空気が変わったが、焦っているギーシュは気づかない。
 たしかに最近、森まで二人で遠乗りして、秘密の打ち合わせをすることが何度もあった。学院内で『へんきゅあ』関連の内緒話をするのは危険かもしれない......と思ったからだ。
 だが、それとこれとは話が違う。

「いや、彼女と出かけたのは、君とそうなる以前で......」

 ざわざわ。
 周囲の動揺が大きくなり、ギーシュを取り巻く者たちも皆、一歩引いてしまう。

「ギーシュ......あなた......とうとう女ばかりか男にまで......」

 口に手を当てて、大きく目を見開くモンモランシー。
 その姿を見て、さすがのギーシュも、今現在どのように誤解されているのか、ようやく理解できた。

「違う! 断じて違うよ、モンモランシー!」

「......不潔よっ!」

「最低ですっ!」

 モンモランシーもケティも、その場から走り去ってしまう。
 急いで追いかけるギーシュ。
 彼は一瞬だけ振り返り、

「マリコルヌ! 君なんて......友だちでもなんでもないからな!」

「ギーシュ......」

 この時になってマリコルヌも、自分がとんでもない失敗をしでかしたと気づいたが、もう遅い。食堂から出ていくギーシュの後ろ姿を、ただ見送ることしか出来なかった。

「......そんなに心配することないみぽ。友情に亀裂が入ってコンビ解散の危機になるのは、序盤の定番イベントみぽ」

 彼だけに聞こえる小声で、使い魔クヴァーシルがソッとつぶやく。だがマリコルヌの耳には、もうクヴァーシルの言葉すら届いていなかった。

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 部屋に戻ったモンモランシーは、気分転換のため、ポーション作りを始めた。少ししたら授業に行かねばならぬ時間だが、その前に、気持ちを落ち着かせる必要があったのだ
 すると......。

「モンモランシー! この扉を開けておくれよ! 僕は君への永久の奉仕者だよ!」

 扉を叩く音と同時に、廊下からは、ギーシュの懇願が聞こえてくる。
 しかし。

「だーれーがー永久の奉仕者よ」

 モンモランシーは口の中でつぶやくだけで、見向きもしなかった。
 ギーシュの浮気性にはホトホと愛想がつきていたところに、あの爆弾発言である。女性が相手ならまだしも、なんと男性......それもマリコルヌとは!
 あんな豚のような男と同列に扱われたかと思うと、腹立たしいを通り越して、なんだか情けなくなってしまう。彼女は、女のプライドを大いに傷つけられたのだった。
 もうギーシュなんて、顔も見たくなければ、口もききたくない。
 だが、ドンドン、ドンドン、と扉を叩く音がうるさく、このままでは止みそうもない。仕方なく、イライラした声で相手をする。

「何しに来たのよ。もう、あなたとはおしまいよ。マリコルヌとお幸せに!」

「モンモランシー! そんな悲しいことを言わないでおくれ! マリコルヌは、ただの友だちだ!」

「......ふん。どうだか」

「信じておくれ、僕が愛してるのは女性だけだ。女性の中でも特に、君だけだ! 僕はもう、君以外を女性とは認めないことにした。モンモランシー! 愛してる! ダイスキだよ! 愛してる! 愛してる!」

 もう騙されないぞ、とモンモランシーは思った。
 ボキャブラリーが貧困なギーシュは、とにかく「愛してる」を連発してくる。そのセリフを何度も言われると、女として悪い気はしないのだが......。
 いやいや、ここでウットリとしてしまったら、いつもの二の舞だ。今日こそは自分を保たねば......。
 モンモランシーは、頭を左右に振った。しっかりしよう、と決意するのだが、だんだん、頭がボーッとしてくる。
 そして。
 自分は不可思議な睡魔に襲われているのだ、と気づく前に......。
 モンモランシーは眠りに落ち、座っている椅子から転げ落ちた。

########################

 ドサッ。

 何か重いものが床に落ちる音。
 以後、室内から物音も話し声も聞こえてこない。いくらモンモランシーが自分を無視するにしても、これは変だ。そう思ったギーシュは慌てて、

「モンモランシー! どうたんだ、モンモランシー!? 返事をしておくれ!」

 扉を叩く力を強めても、「うるさいわね」と一言もなかった。
 さすがに心配になったギーシュは、ドアに『アンロック』の呪文をかけた。学院内で『アンロック』の呪文を唱えることは重大な校則違反なのだが、今は非常事態である。

「モンモランシー!」

 バタンと扉を開けて、部屋に飛び込むギーシュ。
 室内は、とても乙女の部屋とは思えぬありさまだった。
 壁際の棚には、けばけばしい色の液体を秘めた瓶がズラリと並び、机の上には、同じく怪しげな器具の数々。るつぼの中には、すりこぎでこね回された謎の秘薬も入っており、ドギツイ匂いが立ちのぼっている。
 まるで魔女の部屋だが、これを魔女の部屋ではなく美女の部屋だと思えるようでなければ、モンモランシーの恋人はやってられない。まあ、いつものことだ、とギーシュは気にしなかったが、いつもと違う点が一つ。

「モンモランシー! しっかりしたまえ!」

 モンモランシーが床に転がっていたのだ。位置的には、椅子から崩れ落ちた感じである。
 声をかけても、揺さぶっても、目を覚ます気配はない。

「......どうしたのいうのだ......?」

 詳しく様子を見るため、顔を近づける。すると、ああ、これが男の本能であろうか。理性では、いけない、とわかっているのに、ついつい自然に、唇が唇に引き寄せられて......。

「そんなことしてる場合じゃないめぽ!」

 ギーシュの服の中に隠れていたヴェルダンデが、突然、顔を出して叫んだ。
 ギクッとしてモンモランシーから離れるギーシュ。危ない、危ない。もうちょっとで性犯罪者になるところだった、と胸をなで下ろす。
 
「さすがは僕の使い魔だ。間一髪のところで、僕を止めてくれたのだね」

「そんなんじゃないめぽ! 闇の力を感じるめぽ!」

「闇の力......? それじゃ、モンモランシーが眠り姫になってしまったのは、まさか......」

 ギーシュが、前回の戦いを思い出した時。

「そのとおり。今度は、そう簡単にはやられないよ」

 自信ありげにつぶやきながら、部屋に入ってきたのは......。
 使い魔召喚の儀式の日に現れた、あの女エルフだった!

########################

 その頃。
 食堂でボーッと立ちすくんでいたマリコルヌは、騒ぎ立てるクヴァーシルの声で、現実に引き戻された。

「......みぽ!」

「なんだよ、クヴァーシル。ダメじゃないか、人前で堂々と喋っちゃ......」

 使い魔の言葉に意識を傾けていなかったマリコルヌは、最後の『みぽ』しか聞こえていない。それでもとりあえず、一応の注意を与えたところで、

「よく見るみぽ! みんな眠っちゃってるみぽ!」

 言われて周りを見回せば。
 机に突っ伏している者や、床に座り込んでいる者など、とにかく目に入る範囲で、意識のある者はいない。

「あれ? これって、もしかして......」

「そのとおりみぽ! 闇の力みぽ!」

 ここに女エルフが来ていない以上、きっとギーシュのところだ、今頃ギーシュは一人で戦っているはずだ、とクヴァーシルは言う。

「そうか......」

「『そうか』じゃないみぽ! 一人じゃ『へんきゅあ』に変身できなくて困ってるみぽ! 早く助けに行くみぽ!」

「助けに......?」

 マリコルヌの頭の中では、ギーシュの『友だちでもなんでもない』という言葉が響いていた。

「......やだよ。怖いもん。行ったら、またエルフとか化け物とかと戦うことになるんだろ。しかも誰にも内緒で......。そんなことして、僕に何の得があるんだよ」

「損得の問題じゃないみぽ!」

 クヴァーシルにもわかっていた。マリコルヌは、ギーシュの絶交宣言で心に深い傷を負ったのだ。だから、その傷口に触れないようにして、上手く説得しなければならない。

「......勇気を身につけるみぽ」

「勇気?」

「そう、いざというときの勇気みぽ。どんな時でも逃げ出さない勇気......。そんな勇気があったら、女の子にもモテるかもしれないみぽ。そんな勇気を身につけるためには、闇の力との戦いは、絶好の機会......」

 最後まで言う必要はなかった。マリコルヌは、すでに動き出していた。女の子にモテる、これは彼にとって魔法の言葉だったのだ。

########################

「どうやら一人では、変身すらできないようだな?」

「くっ。変身などせずとも......。僕はメイジだ。だから魔法で戦う。僕の二つ名は『青銅』。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手する!」

 威勢良く戦い始めたギーシュだが、彼は苦戦していた。
 元々の力量に差がある上に、ここはモンモランシーの部屋の中。どうしても思いっきり暴れることは出来ないのだ。
 しかも、女エルフが今回『ねふてす』の核にしたのは、モンモランシーの香水ビン。ビンそのものを割らずに、闇の力だけを浄化したい、と思うのだが、そんな手加減のできる相手ではない。

「ああ、ワルキューレ......」

 一つ、また一つ。毒液と化した香水をかけられて、青銅ゴーレムが倒れてゆく。
 七体あった『ワルキューレ』も、もはや残り二体。
 しかし、この時。

 バン!

 勢いよく扉の開く音。
 ぽっちゃりメイジの登場だ。

「マリコルヌ! 来てくれたのか!」

「ギーシュ、とにかく変身だよ!」

 残りの『ワルキューレ』が時間を稼いでくれているうちに......。

「未来を照らす花開く大地のメイジ、ギーシュ・ザ・マックス・ハート!」

「羽ばたく空に勇気を運ぶ風のメイジ、マリコルヌ・ザ・スプラッシュ・スター!」

 二人の変身が終わったのは、ちょうど『ワルキューレ』が全滅した瞬間だった。

「よくも僕の『ワルキューレ』を!」

 走り出すギーシュ。マリコルヌも追いかける。まずは肉弾戦だ。
 ギーシュのパンチが、マリコルヌのキックが、『ねふてす』に叩き込まれる。
 その最中。

「ギーシュ! 僕にとっても、君は友だちじゃないからね!」

「何を言うんだ、こんな時に!?」

「こんな時だからこそ、言っておくんだ! 僕がモテないのを知ってるくせに、見せびらかすように女の子たくさんはべらすギーシュなんて......僕の友だちじゃないや!」

「マリコルヌがモテないのは、僕のせいではないだろう! 君こそ、僕の苦労など何も知らないで......。女の子たちが僕を放っておいてくれないから、本命の女の子まで悲しませてしまう......。君にわかるか、この辛さが!?」

「わかるわけないだろう! くそっ、腹立つ! あと、勘違いしてるみたいだけど! 君だって、自分で思ってるほどモテモテじゃないと思うぞ!」

「言ったな、この豚野郎!」

 口では罵りあいながらも。
 二人の攻撃の息はピッタリだった。
 怪物『ねふてす』を窓際に押し込んで......。

「でも......」

「だけど......」

 ここで、二人の声が揃う。

「友だちじゃなくても、ふたりは『へんきゅあ』だから!」

 その瞬間。
 同時攻撃をくらった『ねふてす』は吹っ飛び、そのまま窓を突き破って、中庭へ。
 怪物を追って、二人も外へ飛び出した。

「よし、これで部屋を心配せずとも戦える!」

 少しホッとするギーシュ。彼の気持ちは、何も言わずともマリコルヌにも伝わっており、だからこそ二人で『ねふてす』を外に追いやったのだ。
 あとは『へんきゅあ』の力で浄化するだけだが......。

「ギーシュ。君は、部屋に残してきたモンモランシーが心配だろう。だから、ここは僕に任せて!」

「マリコルヌ......」

 前回はギーシュが必殺技を決めてみせたが、今回はマリコルヌの番だ。

「純情童貞の情熱の風、受けてごらん! ヘンキュア・ウインディ・ファイヤー!」

 マリコルヌの様々な想いをのせた、炎のように熱い風が、怪物『ねふてす』に襲いかかった。

「ネ〜フテ〜ス〜!」 

 断末魔の叫びとともに、浄化された怪物は、もとの小ビンへと姿を変えた。

「......くっ! またしても!」

 敗北を見届けた女エルフが、ひっそりと去っていく......。

########################

「......あら、私いつのまに......」

 目が覚めた時。
 モンモランシーは、ベッドの中だった。たしか、椅子に座って、廊下のギーシュと応酬していたら、とつぜん眠くなって......。

「気がついたかい? よかった。このまま眠り姫になってしまうのかと心配したよ」

 ベッドの傍らから、優しい声がする。彼女に笑顔を向ける、その声の主は......。

「ギーシュ!? あなた......勝手に私の部屋に......!」

「ドサッという物音がしたから、心配になって......」

 そう、モンモランシーは床に崩れ落ちたのだ。それがベッドで横になっているということは、ギーシュが寝かせてくれたに違いない。
 変なことしなかったでしょうね、と彼女が悪態をつく前に。

「いきなり気を失ってしまうとは......さぞやショックだったのだろう。誤解させてすまない」

 食堂での一件を謝罪するギーシュ。こう素直な態度に出られては、モンモランシーとしても、何も言えなくなる。
 考えてみれば。
 マリコルヌとどうこう、というのは明らかな誤解だ。いや、もしかするとギーシュの人気に嫉妬したマリコルヌによる、ギーシュを貶めようという策謀だったのかもしれない。
 なにしろ、ギーシュなのだ。女好きのギーシュなのだ。自分とデートしている時にさえ他の女の子に目移りするほど、無類の女好きなのだ。そのギーシュが男を相手にするなんて、ぶっちゃけありえない。
 ......と、モンモランシーは乙女心全開で考える。

「いいわ。早とちりした私も悪かったわ」

「では......誤解はとけたのだね?」

「もちろんよ」

 モンモランシーは、微笑みを返した。
 なんだかんだ言って、食堂での騒動の直後、ギーシュはケティなど追いかけず、まっすぐこちらへ来てくれたのだ。そして自分が気を失っている間、横でずっと見守っていてくれたのだ......。

「ありがとう、ギーシュ。授業にも出ずに、ずっと付き添ってくれて」

「当たり前じゃないか。授業なんてどうでもいい。僕にとっては......君が一番だ」

 なんだか、いつもと雰囲気が違う。今日のギーシュは、無駄に美辞麗句を並べ立てるのではなく、なんだか落ち着いている......。
 そう感じたモンモランシーは、

「ねえ、ギーシュ」

「なにかね?」

「もう少し......ここにいてくれる?」

 言うと同時に、そっと手を伸ばした。

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 この時。
 外の廊下では、マリコルヌとクヴァーシルが、扉越しに部屋の様子をうかがっていた。

「よかったみぽ。こういうのを『雨降って地固まる』って言うみぽ」

「うん、うん。本当によかったね」

 マリコルヌの両目からは、降りしきる雨のように、涙が溢れ出していた。
 友の幸せを喜ぶ涙なのか、あるいは、自分の独り身を悲しむ涙なのか。彼の涙の意味を知る者は、誰もいない......。

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 第四話「ご用心! 制服着せても二人は無茶苦茶ヘンタイ!?」


「ねえ、ギーシュ。サイトの話、聞いたかい?」

「サイト......? ああ、ルイズの使い魔か」

 その日。
 ギーシュはマリコルヌと二人で、学院の庭を歩いていた。
 色々と誤解されるとまずいので、もう二人で遠出などはせず、内緒話も学院内でしよう、ということになったのである。学院の敷地は、結構広い。ぶらぶら散歩していれば、人目につかない場所もあろうというものだ。
 ちなみに、今は『へんきゅあ』関連の内緒話をしているわけではなく、ただの世間話である。

「サイトがどうかしたのかね?」

 男に関する噂話など、ギーシュは興味なかった。才人には、以前に食堂でモンモランシーの香水ビンを拾われて、えらいことになったが......。ギーシュにとっての『サイト』など、その程度の関心である。
 結局、すぐにモンモランシーと仲直りできたのだから、才人を責める必要もなく、名前すらちゃんと覚えていないのであった。

「なんだ、ギーシュは知らないのか。サイトって、なんだかすごい使い魔だったらしいよ」

 マリコルヌの説明によると。
 先日、宝物庫から『破壊の杖』というお宝が、フーケという有名な盗賊に奪われた。ちょうど現場を目撃していたルイズ、キュルケ、タバサがフーケ捕縛に出かけることになり、当然、ルイズの使い魔である才人も同行した。
 その結果。
 実は才人にはあらゆる武器を使いこなすという特殊能力があったこと、『破壊の杖』は武器の一種であること、フーケの正体は学院秘書ミス・ロングビルであること、などが判明し、使い魔才人の活躍で、見事、ルイズたちはフーケを捕えることができた......。

「何やら宝物庫で騒動があった、というのは聞いていたが。そうか、そんなことになっていたのか......。残念だな。綺麗な人だったのに、ミス・ロングビル」

「あ、噂をすればなんとやらだ!」

 嘆くギーシュの傍らで、突然、叫び出すマリコルヌ。彼は、アウストリの広場の方を指さしている。

「何!? ミス・ロングビルが戻ってきたのか!?」

「そっちじゃないよ、サイトだよ。ほら!」

「なんだ。サイトなんてどうでもいい......いや。メイドが一緒のようだな。何をやっているんだ、あれは?」

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 対フーケ戦において『ガンダールヴ』の能力が判明した才人は、ルイズと共に街へ出かけ、剣を買ってもらった。それがガンダールヴ用の剣、デルフリンガーであったことは、嬉しい偶然であろう。
 だが。
 才人にとってもっと嬉しかったことは、ルイズが『ごほうび』を買ってくれたことだった。
 使い魔が評価されたことで主人メイジの評価も上がったこと、ルイズの懐具合に余裕があったこと――決闘などしなかった才人は大怪我もしなかったので――など、理由は色々あったようだが、そこのところは、才人としてはどうでもいい。

「なによ、服が欲しいの? あきれた。もっといいのにしなさいよ」

「いや。これがいい。これじゃなきゃ、だめなんだ!」

「そこまで言うなら......。おじさん、これいくら?」

「三着で一エキューで結構でさ」

 というわけで。
 水兵服を手に入れた才人は......。
 現在、セーラー服イベント真っ最中なのであった!

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「シエスタ最高ぉおおおおオオオオッ!」

 才人の指示に従って、メイドのシエスタが身をよじったり、くるりと回ったり、『お待たせっ!』発言したり。
 物陰から覗いていたギーシュとマリコルヌは、たまらなくなって飛び出した。

「それは何だね? その服は何だねッ!」

「けけ、けしからん! まったくもってけしからん!」

 身の危険を感じたシエスタは、仕事に戻ります、と逃亡。
 才人は、俺の故郷の制服なんだ、と二人に説明したが、二人にとってはどうでもいい情報だった。才人の望郷の念だと思って頑張ったシエスタとは違うのである。

「な、なあ君。あの衣装をどこで買ったんだ?」

 才人は最初、肝心の情報を出し渋ったが、

「しかたない。今の出来事をきちんと報告した上で、ルイズに尋ねてみよう」

「あと二着ある。好きに使ってくれ」

 魔法の言葉により、情報以上のシロモノが、ギーシュとマリコルヌに手渡された。

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 さて。
 その晩のうちにギーシュは、セーラー服をモンモランシーに渡して。
 翌朝、その格好で教室に入ってきたモンモランシーは、一躍ときの人となったわけだが......。
 着てくれる相手が誰もいないマリコルヌは。

「はぁ、ん、はぁはぁ......」

 風の塔の二階、人が来ない倉庫にて。
 例の水兵服と女性用スカート、つまり100%のセーラー服を自分自身に装備して、悦に入っていた。

「はぁ! かか、かわいいよ......」

 この倉庫には『嘘つきの鏡』があるのだ。醜いものは美しく、美しいものは醜く映し出す魔法の鏡なので、今、鏡に映ったマリコルヌは、絶世の美少女と化していた。
 一応、クヴァーシルも近くにいるが、クヴァーシルは顔を背けて、見ないふりをしている。
 そうやってマリコルヌが一人で楽しんでいると......。

 ばぁーん!

 勢いよく扉の開く音。
 続いて、入ってきた人影。
 マリコルヌは、思わず叫んでしまった。

「き、君は......!」

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 ルイズは今、猛烈に機嫌が悪い。才人に買い与えた服の一着を、今朝、なぜかモンモランシーが着ていたのだ。
 友情の証としてギーシュに渡した、と才人は言っていたが......。
 御主人様からのプレゼントを勝手に他人に譲渡するなんて、言語道断である!
 それに、才人とギーシュとの間に、そんな深い友情などあるわけがない。何か裏の事情があるのではないか、と問い詰めようとしたら、うまく才人は逃げやがった。
 そんなわけで。
 ほうぼうを探し回った結果、ルイズは現在、風の塔に来ている。ここに怪しい人影が消えるのを目撃したのだ。
 白っぽい衣装に、大きな襟。明らかに、例の水兵服だった。
 こっそりとあとをつけて、ルイズも塔に入る。コツコツと階段を上がる足音が聞こえる。しばらく一階で息を潜めた後、あとを追いかけた。
 扉を開き、そして閉める音が、二階から聞こえてきた。確か、二階は倉庫だったはず。あの水兵服の人物は、そこで何をしようというのだろう?
 などと考えたルイズは、階段の途中で睡魔に襲われ......。
 その場で、眠りに落ちた。

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「き、君は......!」

 マリコルヌの楽しみを邪魔した者、それは、いつもの女エルフだった。
 突然の乱入にマリコルヌは驚いたが、女エルフの方でも、マリコルヌのセーラー服姿に唖然としている。

「な......なんなんだ、その格好は......?」

「『へんきゅあ』の新しいフォームみぽ!」

 御主人様マリコルヌのために、咄嗟にクヴァーシルがフォローを入れる。

「パワーアップしてフォームチェンジするのは、物語終盤の定番イベントみぽ!」

「嘘つけ! 一人じゃ『へんきゅあ』に変身できないから、違うだろ!」

 フォローは通用しなかった。
 そこに。

 ばぁーん!

 扉を開けて入ってきたのは、今度はギーシュだ。
 ギーシュはマリコルヌを一目見るなり、

「なんで君がその服を着てるんだ?」

「いや、あんまり可憐すぎて......。で、でも、僕には着てくれる人がいなくって......」

「......わかった。みなまで言うな。とりあえず......君の悲しみを、そこのエルフにぶつけようじゃないか!」

「八つ当たりはゴメンだよ!」

 女エルフが闇の力で怪物『ねふてす』を作り出している間に、ギーシュとマリコルヌも変身だ!

「デュアル・ヘンタイ・ウェーブ!」


 いつもどおりに叫ぶ二人だが、今日のマリコルヌはセーラー服姿である。使い回しの変身シーンではない。絵的には、とても珍しいものであった。

「未来を照らす花開く大地のメイジ、ギーシュ・ザ・マックス・ハート!」

「羽ばたく空に勇気を運ぶ風のメイジ、マリコルヌ・ザ・スプラッシュ・スター!」

 なお、変身後の姿は今までと変わりはない。どんな姿から変身しても同じ格好になる、これは一番大事なお約束であった。

「ネ〜フテ〜ス」

 さて、今回の『ねふてす』は、『嘘つきの鏡』が化け物に変化させられたもの。

「あわわ......。大事な鏡が......」

「しっかりしろ、マリコルヌ!」

 貴重な貴重な宝が核ということで、マリコルヌは攻めあぐねている。普通に浄化してしまえばいいだけなのだが、頭ではわかっていても、つい手を出しづらいということか。
 パートナーの心情を思いやって、ここはギーシュがひと頑張り。

「邪悪な力を包み込む、真っ赤なバラを咲かせよう! ブラッディ・ローズ・ブリザード!」

 赤い薔薇の花吹雪で、闇の力を浄化。怪物は、もとの鏡に戻った。

「よかった......」

「くっ! 今日の敗因は......いきなりヘンなものを見せつけられて、目が腐ったことだ!」

 女エルフは撤退し、二人は変身を解く。
 マリコルヌは、鏡を大切に所定の位置へと戻しながら、ふと室内を見回して、

「今日は誰も、起こして回る必要ないね。ギーシュ」

「そうだな。自然に起きるのを待てばいい」

 皆どこか、それぞれの場所で眠っているはず。へたに起こしに行ったら、かえって不自然だ。

「そういえば......階段の途中では、ルイズが眠っていたな」

「階段って、この塔の?」

「うん」

「そんなところで......いったい何してたんだろう?」

 マリコルヌは、ルイズが彼のあとをつけていたとは知らないので、目が覚めたルイズがとるべき行動も、当然、知るはずがなかった。
 そして。

 ばぁーん!

 そのルイズが、扉を開けて入ってくる。彼女は二人を見て、驚愕に目を見開き、

「あ、あんたたち......。何をしてるの!?」

 信じられない、という顔で二人を見比べる。
 学院の制服を着たギーシュと。
 制服ではあるが異世界の、しかも女性用であるセーラー服を着たマリコルヌと。
 男が二人で、隠れて何やらコソコソしていたのだ。しかも、わざわざ片方は女装して。
 ルイズの頭に浮かぶ想像は、一つしかなかった。

「あんたたち......やっぱり......。きゃあっ!」

 真っ赤な顔で、逃げるように飛び出して、塔を駆け下りていくルイズ。
 こうして。
 ギーシュとマリコルヌは怪しい仲だという噂が、再燃するのであった。

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 第五話「夢見るために生まれた!? がんばる男の子、アルビオンへ飛ぶ!」


「夢を見過ぎだよ、ギーシュ!」

 マリコルヌは叫んでしまった。
 姫殿下の頼みで明朝アルビオンへ行く、と突然ギーシュが言い出したからだ。

「夢ではない。本当の話だ。姫殿下から直々に、頼まれたのだよ」

 アンリエッタ姫殿下がトリステイン魔法学院を訪れたのは、マリコルヌも知っている。おかげで今日の授業は中止になったし、馬車から降りる姫殿下の姿は、マリコルヌも目撃している。
 しかし......。その姫殿下が、よりによってギーシュに秘密の任務を依頼するとは!

「信じられないよ! ギーシュ、正気に戻っておくれ!」

「マリコルヌ。僕が夢物語を口にしてる、とでも思ってるのか? 失礼だな、君は」

「......残念ながら本当の話めぽ」

 使い魔ヴェルダンデが、ギーシュの話を補足する。
 ......昨夜、謎の女性が女子寮に入っていくのを目撃したギーシュは、こっそりあとをつけた。怪女性はルイズの部屋に入ったので、扉に耳を擦り付けて立ち聞きしていたら、その正体はアンリエッタ姫殿下だと判明。彼女はルイズに、他の者には頼めぬことを頼みに来たのだ。そこにギーシュも飛び込み、ギーシュもその仕事に関わることになった......。

「そういうことだったのか。それなら、少しは現実味もある話だね」

「そう! だから僕は行くのだ! そして無事任務を達成した暁には、感激した姫殿下が、僕に......」

 ギーシュはそれ以上何も言えなかったが、真っ赤な彼の顔を見れば、何を想像しているのか、だいたい見当もつくというものだ。

「ギーシュ......。さすがにそれは、けして実現しない、完全な夢だと思うよ」

 つぶやくマリコルヌの声は、おのれの妄想に浸っているギーシュには、届いていなかった。

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 そして翌朝。
 まだ朝もやのけむる時間に......。
 ルイズと、その使い魔才人と、王宮から派遣されたワルド子爵。彼ら三人と一緒に、ギーシュは旅立っていった。

「......」

 自室の窓から、黙って見送ることしか出来ないマリコルヌ。彼の使い魔クヴァーシルが、不思議そうに声をかける。

「一人で行かせてよかったみぽ?」

「だって......僕には止められないよ」

「そうじゃないみぽ! なんで一緒に行かないのか、と言ってるみぽ!」

「......!?」

 マリコルヌはハッとして、クヴァーシルを見つめ返した。

「これは定番の修学旅行イベントみぽ! 二人は一緒に出かけて、同じグループで行動するのが当然みぽ! 離れ離れになっては困るみぽ!」

 ちょっと意味がわからぬ言葉もあったが、たしかに、二人は『へんきゅあ』なのだ。離れ離れになってはいけない!

「さあ、今からでも追いかけるみぽ! ちょうど第二陣のバスが出発しようとしてるみぽ!」

 さきほど以上に意味のわからぬ言葉であるが。
 クヴァーシルの指し示す先には、一匹の青い風竜が飛んでいた。タバサのシルフィードだ。タバサとキュルケをのせている。ルイズ一行を追いかけるつもりらしい。

「おーい! 待ってくれ! 僕も乗せてってくれ!」

 クヴァーシルの言葉に促され、マリコルヌは、窓から『フライ』で飛び出した。

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 マリコルヌたち三人は、港街ラ・ロシェールの入り口で、無事、ギーシュたち四人に追いついた。ちょうど山賊に襲われていたところだったので、ある意味、グッドタイミングだったのかもしれない。
 そしてラ・ロシェールに一泊して、翌朝。
 ギーシュとマリコルヌは、相部屋の才人がワルドに連れ出されるのにも気づかず、グーグー眠っていたのだが......。

「いつまで寝てるめぽ!」

「闇の力を感じるみぽ!」

 使い魔に叩き起こされ、渋々ベッドから出る二人。
 そこに。

「......ちっ。寝ている間に闇討ちしてやろうかと思ったのに!」

 いつもの女エルフが現れた!

「なんでこんな朝早くから......」

「マリコルヌ、そこまで『朝早く』ではない気もするが......。とにかく変身だ!」

 早速『へんきゅあ』に変身する二人。なお今回はパジャマ姿からの変身なので、前回同様、変身シーンはバンクではない。

「......この地を漂いし闇の精霊よ。我の呼びかけに応じて、このものに力を分け与えたまえ......」

 二人が変身している間に、女エルフも『ねふてす』を作成。今日は宿屋のテーブルを核としたようだが。

「宿の備品ならば!」

「手加減する必要もない!」

 遠慮も連係もなく、それぞれ必殺技を叩き込む二人。
 特にパワーアップしたわけでもない『ねふてす』が、ブラッディ・ローズ・ブリザードとヘンキュア・ウインディ・ファイヤーを同時に食らっては、ひとたまりもなかった。

「......くっ! お前たちが予想以上に早起きだったのが、今日の敗因だ!」

 いつものように、捨てゼリフと共に逃げていく女エルフ。
 それを見届けてから。

「なんだったんだ、いったい......」

「まだ眠いよ、僕は。もう一眠りしようかな」

「そうだね。どうせまだみんな寝てるだろうし。もともと眠ってたなら、起こしてまわる必要もないだろう」

 ベッドに戻り、二度寝する二人であった。

########################

「......おい、相棒! 起きろ! 起きろってば!」

「......ん......」

 愛剣デルフリンガーの声で、才人は、夢の世界から現実に引き戻された。
 ルイズ立ち会いのもと、ワルドと練兵場で戦い始めて......。
 その途中で、強烈な睡魔に襲われ、倒れてしまったのだ。

「!」

 状況を思い出し、ハッとする才人。

「ワルドは!?」

「安心しろ、相棒。あとの二人は、まだおネンネだぜ。おいらが一番だったようだ」

 見回せば、デルフリンガーの言うとおり。ワルドもルイズも、その場に突っ伏している。

「じゃあ......」

「おい、相棒! そっちじゃねえだろ!」

「えっ?」

 ルイズをあのままにはしておけない。才人はそう思ったのだが、剣の意見は違うらしい。

「二人とも、すぐに目覚めるはずさ。なら、その前にやることがあるだろ」

「えーっと......。ルイズにキス?」

「ちゃうわ! 相棒はあっちの髭と勝負してたんだろうが!」

 ようやく才人も理解。
 才人はワルドに歩み寄り、彼の体を踏みつけ、その鼻先に剣を突きつけた。
 直後、ワルドやルイズも意識を取り戻す。
 
「こ、これは!?」

 ルイズもワルドも、驚くしかなかった。途中まではワルド優勢のように思えたのだが、この状態を見るかぎり、才人が勝ったらしい。

「ま、まいった」

 こうして。
 ワルドは屈辱的な敗北を喫した。

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 第六話「旅だ仲間だアルビオン旅行だ! いのちの花おもいっきり散らせた王子さま!?」


 女エルフの襲撃を、秘かに『へんきゅあ』二人が撃退した日の夜。
 今度は、フーケ率いる傭兵の一団に襲われた。もちろん、これは闇の力とは無関係な話であり、ギーシュもマリコルヌも変身したりはしない。普通の土メイジ、風メイジとして、仲間と共に戦った。

「いいか、諸君。このような任務は......」

 ワルドの指示で、一行は二つに分裂。タバサ、キュルケ、ギーシュ、マリコルヌの四人が囮となって残り、ワルドとルイズと才人をアルビオンへ先行させることになった。
 作戦は無事に成功。四人は協力して、傭兵たちをやっつけて、さらにフーケを追い返した。
 その後彼らは、寝る間も惜しんで、タバサのシルフィードでルイズたちを追いかけたわけだが......。

########################

 白の国アルビオン。
 はるか雲の上に浮かぶ浮遊大陸まで四人も乗せて飛んでいくのは、さすがのシルフィードにも重労働だったのかもしれない。

「さて。アルビオンまで来たはいいが......サイトたちはどこだろう?」

「ここはニューカッスルの近くだね。たぶん王党派の最後の砦だから、サイトたちも、この辺りにいると思うんだけど......」

 風竜をいたわる気持ちなどなく、ギーシュやマリコルヌがのんきに下の様子を見回していると......。
 突然、ガクンとシルフィードの高度が落ちた。

「な、なんだ!?」

 それだけではない。そのまま風竜は失速して、スーッと地面に向かって落ちていく。

「おい、しっかりしろよ! 寝てる場合じゃないだろ!」

「......無駄みたいだな、マリコルヌ。見ろ!」

 ギーシュに言われて、マリコルヌも気づいた。シルフィードだけではない。キュルケとタバサも、いつのまにか眠ってしまっている!

「......ということは、まさか......」

「闇の力を感じるめぽ!」

########################

 結局墜落したシルフィードであったが、スーッと滑るように着地したので、胴体着陸のような格好となった。さいわい、乗っていた四人も、シルフィード自身も無事らしい。

「いつものとおり......あの女エルフを追い返すまでは、みんな目を覚まさないんだね?」

「そのとおりめぽ!」

「これは大変だぞ。このあたり一帯、みんな眠ってしまったということは......」

 このアルビオンでは現在、王党派と貴族派の大決戦が行われているのだ。戦っている最中に眠ってしまっては、その行く末にも大きな影響を及ぼすに違いない。

「とにかく、早くなんとかするめぽ!」

「闇の力は......こっちから感じるみぽ!」

 彼らが降り立ったのは、ちょうど教会の前だった。クヴァーシルが指し示しているのは、その建物の中である。
 ギーシュとマリコルヌは、顔を見合わせて小さく頷くと、礼拝堂へと飛び込んだ。
 すると......。

「待っていたぞ、光の戦士!」

 ずらりと並んだ長椅子の列。間に敷かれた赤い絨毯。その先にあるのは、始祖ブリミルの像......。
 その像の傍らに立っているのは、言わずと知れた、いつもの女エルフ。

「......前回は、愚にもつかぬシロモノを使ったせいで、あっさり負けたからな。今回は......」

 女エルフが語っているが、ギーシュもマリコルヌも、聞いてはいなかった。二人の目は、礼拝堂の惨状に釘付けだったのだ。

「こ、これは......」

「なんてことを......」

 才人が倒れている。
 ルイズが倒れている。
 ワルドが倒れている。
 ウェールズ王子が倒れている。
 ただしウェールズ王子だけは、他の三人とは違って、死んでいる。胸の傷を見れば、事切れているのは誰の目にも明らかだった。

「貴様! よくも皇太子を!」

「......え?」

 ギーシュにビシッと指を突きつけられ、一瞬とまどう女エルフであったが、すぐに事情を理解して、

「ち、違う! これは違う! 私が皆を眠らせたときには、もう死んでいたんだ!」

「嘘をつくな! ここには味方しかいないじゃないか!」

 ギーシュもマリコルヌも、ワルドが裏切り者であることを、まだ知らない。

「それに! おまえたちは、僕たち人間を全員抹殺するために来たんだろう!?」

「い、いや......それはそうだが......。しかし! 蛮人どもを皆殺しにするのは、邪魔な光の戦士、つまりお前たちを片づけた後だ! だいたい、どうせ殺すなら一人ではなく、みんな殺しているわ!」

「そうか! 僕たちが駆けつけるのがもう少し遅れたら、ルイズもサイトもワルド子爵も殺すところだったんだな!」

「だから、違うと言ってるだろう! ええい。こんな言い合いしてても埒があかん!」

 女エルフは業をにやして、

「......この地を漂いし闇の精霊よ。我の呼びかけに応じて、このものに力を分け与えたまえ......」

「よし、この間に僕たちも変身だ!」

 女エルフにより新たな怪物が誕生したのと、二人の変身が完了したのは、ほぼ同時だった。

「未来を照らす花開く大地のメイジ、ギーシュ・ザ・マックス・ハート!」

「羽ばたく空に勇気を運ぶ風のメイジ、マリコルヌ・ザ・スプラッシュ・スター!」

 いつものように名乗りを上げた二人は......。
 今日の『ねふてす』を見て、絶句してしまう。

「......!」

「どうだ、驚いたか! いくら光の戦士とはいえ、これでは手も足も出せまい!?」

 自信満々のエルフ。それもそのはず、彼女が今回、怪物の核としたのは、礼拝堂に祀られていた始祖ブリミルの像であった。
 ここハルケギニアにおいて、始祖ブリミルへの敬意は異常である。始祖ブリミルの容姿を正確に象ることは不敬とされ、神官の聖具にデザインされた始祖には顔がないくらいだ。
 そんな始祖ブリミルを怪物にされて、どう戦ったらいいのか......。

「や、やや......。僕には......どうすることもできない......」

 絶望のギーシュ。
 一方、マリコルヌは。

「ウェールズ皇太子殺害だけでなく......。始祖ブリミルに対する不敬な仕打ち......。許せない!」

 意外に信仰心の厚いマリコルヌは、手が出せないという気持ちを通り越して、怒りで感情を爆発させていた。
 怒りの炎が、彼の必殺技をパワーアップさせる!

「純情童貞の情熱の風、受けてごらん! ヘンキュア・ウインディ・ストライク!」

 威力を増した熱風は、大きな丸い塊となって『ねふてす』を直撃。あっというまに怪物を浄化、もとの始祖像に戻す。

「くっ! 今日の敗因は、いきなり妙な誤解をされたことか......」

 いつものように、女エルフは逃げ去っていった。

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「......ウェールズ皇太子......」

 変身を解いたギーシュとマリコルヌは、ウェールズの亡骸を見下ろしていた。
 手紙奪還任務がどうなったのかは知らないが、肝心のウェールズが死んでしまった以上、もはや一刻も早くトリステインに戻るべきであろう。
 外では戦争の真っ最中だったのだ。眠っている者たちが目覚めれば、すぐに再開するに違いない。

「急ごう! みんなが目を覚ます前に、早く!」

 アルビオン脱出のため、ルイズたち三人を抱えて、シルフィードのところまで戻る二人。
 そして。
 今回も、まずは才人とデルフリンガーが意識を取り戻して......。

「なんだって!?」

 才人の口から語られた、驚くべき真相。
 魔法衛士隊の隊長が......レコンキスタの一員だったなんて! 皇太子殺害の重罪犯だなんて!
 状況を理解した二人は、ワルドが目覚める前に、急いで彼を縛り上げた。
 こいうして。
 ワルドは捕縛され、トリステインへと連行された。

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 第七話「カタイ殻をまとってアイツは生まれる!? その名は竜の羽衣!」


 その日。
 魔法学院の中庭に、巨大な鉄の竜が現れた。

「な、なんだあれは!?」

「例のエルフが新しい怪物を連れてきたのか!?」

 自室の窓から見ていたギーシュとマリコルヌは、驚いて中庭へ。
 鉄の竜の周りでは、才人とコルベールが何やら話をしていた。
 近くには、キュルケやタバサもいる。

「これは一体なにかね? ミスタ・コルベールが、ずいぶんと熱心な様子だが......」

「あたしたちが見つけたのよ!」

 コルベールの相手で忙しい才人に代わって、キュルケがギーシュたちに説明する。
 ......キュルケは、タバサと才人とシエスタと共に宝探しに出かけて、シエスタの故郷の村で、この鉄の竜に遭遇したのだという。『竜の羽衣』という名前で保管されていたのだが、実は才人の出身地から来たもので、ゼロ戦という空飛ぶ機械なのだとか。

「......それで、めでたくサイトがもらってきた、というわけなの」

「空飛ぶ機械だって? こんなものが、どうやって飛ぶというのだね?」

「信じられないよ!」

 ギーシュとマリコルヌには、とても理解できない話だ。
 キュルケは肩をすくめて、

「あたしに言われても困るわ。ほら、サイトが今、いっしょうけんめい説明してるみたいだから、あなたたちも一緒に聞いてみたら?」

 なるほど、才人とコルベールは、これが飛ぶ仕組みについて話し合っているらしい。
 少しそちらに耳を傾けてみると......。

「......プロペラです。これを回転させて、前に進むんです」

「なるほど! さっそく飛ばせてみせてくれんかね!」

「そのプロペラを回すためには、ガソリンが必要なんです。それを今から先生に相談しようと......」

 やっぱり二人には理解できない話だった。

「ギーシュ。なんだか聞いてるだけで、眠くなってくるような話だね」

「マリコルヌ! 眠くなってくるような、どころじゃないぞ! 見ろ! みんな本当に眠ってしまった!」

 ふと周りを見回せば。
 当の才人を含めて、バタバタと倒れ込む者たち。
 どう見ても、退屈な説明のせいではない。これは......。

「闇の力を感じるめぽ!」

「フフフ。今日こそは抹殺してやるぞ、光の戦士たち!」

 女エルフが現れた!

########################

 いつものように二人は変身し、女エルフは怪物を作成する。
 今回の怪物『ねふてす』は......。

「これまでの失敗から、私は学んだ! やはり大元の強さも大事だったのだ!」

 なんと彼女は、ゼロ戦を『ねふてす』にしてしまった!
 ただでさえ硬い装甲に覆われた、頑丈そうなシロモノだったのだ。怪物と化した今、その防御力は並大抵のものではなかった。

「いてっ!」

 試しに殴ってみたが、むしろギーシュの方が痛いくらいである。
 そして。
 恐るべきは防御力ではなく、むしろ攻撃力の方だった。

 ダダダッ!

「ぎゃあっ!?」

 ゼロ戦の機銃が大地を穿ち、慌てて逃げ出すギーシュとマリコルヌ。

「どうしよう!? あんなもの直撃したら、僕たち一発でおだぶつだよ!」

「うむ。とにかく当たらないように気をつけて、必殺技を叩き込むしかないが......」

 肉弾戦では歯が立たない以上、必殺技で浄化する意外にテはない。だが、これでは必殺技を撃つ暇もなかった。
 とにかく二人は、走って逃げるしかなく......。

「ははは! 悪魔が呼び寄せた武器が蛮人どもを苦しめる! なんと素晴らしき皮肉ではないか!」

 逃げ回る二人を見て、女エルフは高笑い。ゼロ戦がハルケギニアにある理由を知らぬ二人には、この皮肉も通じないのだが、そこまで彼女も気づいてはいなかった。

 ダダダダッ!

 放たれる機銃と、並んで逃走する二人。
 しばらくはその状態が続いたが......。
 突然、ギーシュとマリコルヌは顔を見合わせて。
 ギーシュは左へ、マリコルヌは右へと、走る向きを変えた。

「ネ〜フテ〜ス?」

 どちらを追ったらいいのか、どちらを攻撃したらいいのか。怪物が戸惑って、オロオロしているうちに......。

「邪悪な力を包み込む、真っ赤なバラを咲かせよう! ブラッディ・ローズ・ブリザード!」

「純情童貞の情熱の風、受けてごらん! ヘンキュア・ウインディ・ファイヤー!」

 左右から必殺技の挟み撃ち。
 怪物は浄化され、もとのゼロ戦に戻った。

「......くっ! 燃料切れの、飛べない兵器を用いたことが敗因か......」

 よくわからぬ分析とともに、女エルフは引きあげていく......。

########################

 後日。
 コルベールのおかげで飛べるようになったゼロ戦は、突如トリステインに攻め入ってきたアルビオン艦隊を前にして大活躍。伝説の不死鳥フェニックスだ、などと祭り上げられたという。
 実際には、才人が駆るゼロ戦だけでなく、虚無の力に覚醒したルイズの活躍も大きかったのだが、そこまで知らぬギーシュとマリコルヌは、

「サイトが敵じゃなくて良かったね」

「うん。あのゼロ戦の怖さは、僕たちが一番よく知ってるからね」

 二人だけで、深く納得し合うのであった。

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 第八話「女の子に相手されないナミダは妖精のサービスで消しちゃおう!? 魅惑の妖精亭へいらっしゃい!」


 夏季休暇が始まった。
 ほとんどの教師や生徒が帰省する中、ギーシュやマリコルヌは学院に残った。二人は『へんきゅあ』だから離れ離れになってはいけない、と使い魔に説得されたのだ。
 その結果。

「退屈だよぉ......」

「仕方ないみぽ。これも光のメイジの宿命みぽ」

 使い魔クヴァーシルに慰められても、マリコルヌの気持ちはすぐれない。
 なにしろ。
 同年代の少年少女たちは、夏を満喫しているのだ。
 メイドの話によると、ルイズは急遽帰省を取りやめて、才人と二人でトリスタニアの街へ行き、そこで長らく泊まり込んでいるらしい。けっ、いちゃいちゃしやがって、とマリコルヌは思った。
 タバサとキュルケは、夏休みが始まる前にタバサの実家へと出かけたのに、いざ休暇が始まったら戻ってきて、二人でタバサの部屋で過ごしているらしい。女同士でそういう関係だったのか、けっ、いちゃいちゃしやがって、とマリコルヌは誤解した。

「我慢するみぽ。きっと今頃、次の戦いに備えて、ギーシュも大人しく......」

「クヴァーシル! ギーシュの名前は出さないでくれ!」

 爆発してしまうマリコルヌ。
 そう、彼の一番のイライラの原因はギーシュなのだ。マリコルヌと同じ苦しみを分かち合うはずのギーシュは、むしろ幸せを満喫しているのだから。
 ギーシュはモンモランシーを説き伏せて、彼女の帰省をやめさせたため、毎日二人でラブラブ状態。一応ギーシュは、マリコルヌとの仲を怪しまれて以来、モンモランシーを大切に扱っているので、彼女がトラブル満載な禁断のポーションを作ることもなく、二人は若者らしい恋をはぐくんでいるのであった。
 そして、ちょうど。
 ギーシュの部屋から悲鳴が聞こえてきた。

「大変みぽ! 何かあったみぽ!」

「......あんまり気は進まないけど、行ってみるよ」

 渋々マリコルヌがギーシュの部屋へと向かうと......。

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「そうだったのね。結局それが目的だったのね! なにがたまには僕の部屋で食事を、よ! 珍しくロマンチックなムード演出してると思ったら!」

「演出じゃない! 深い意味はなかったんだ! 嘘じゃないよ!」

「誰もいないからって、ヘンなことばっかり考えてたんでしょ!」

「そんなんじゃない! 誓う! 誓うから!」

「ごめんあそばせ。結婚するまでは指一本、許しませんからね! ほら、その手をどけてったら!」

 ベッドの上で揉み合っていた二人は、マリコルヌが入ってきたのを見て、ピタリと動きを止めた。

「ギーシュ......。いちゃつくなら、せめて静かにやってくれよ」

 続いて。

「......なんだ。取り込み中だったの」

 キュルケがタバサを連れてやって来た。さきほどの騒動は、どうやら女子の寮塔にまで聞こえていたらしい。
 彼女の服は汗でジットリと湿っており、シャツのボタンも外した、あられもない格好だ。キュルケに関するマリコルヌの誤解は、ますます深まってしまう。そんなマリコルヌと目が合って、

「あら。マリコルヌまでいるということは......露出プレイ? いいわ、あたしたちも見ててあげる」

 大胆な結論を導き出すキュルケ。マリコルヌも含めて三人でいっしょ、という可能性は、微塵も頭に浮かばなかったようだ。

「もう! いいかげんにしてよ! そんなわけないじゃないの! 私たちは清らかなおつきあいをしてるのよ!」

 当然のように反論する、純情モンモランシーであった。

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 結局。
 居残り組同士で仲良くやろうということで、彼らは街まで出かけることに。

「そういや、噂の店があってね。一度、行ってみたいと思ってたんだが......」

 ギーシュが提案したのは、『魅惑の妖精』亭という名前の酒場。女の子が可愛らしい格好で、お酒を運んだり、お酌してくれたりするお店らしい。

「やっぱりヘンな店じゃないの!」

「面白そうじゃない。そこ」

「......」

 反対するモンモランシーに、興味を引かれたキュルケに、何も言わないタバサ。女性陣は意見が割れているようだが......。

「マリコルヌ。君はどう思う?」

「行こう! 是非そこに行くべきだ!」

 マリコルヌは大乗り気だった。
 そうした店の女の子なら、モテないマリコルヌに対しても、上手に接してくれるはずだ。チヤホヤしてくれるはずだ。パートナーのいない寂しさを紛らわすには、もってこいの場所だ!
 そこまで考慮に入れた上での提案なのであれば......。ああ、なんてギーシュは友達思いなやつなんだろう、とマリコルヌは盛大に勘違いして、ギーシュを見直していた。
 そんなわけで。
 五人は、チクトンネ街にある『魅惑の妖精』亭へ。

「あら?」

 いざ店に入ってみると、ちょっとしたサプライズ。最初に気づいたのはキュルケだったが、彼女がちょっかいをかけたので、他の者たちもすぐに気づいた。
 なんと、ルイズと才人が『魅惑の妖精』亭でバイトをしていたのだ!

「どんな事情があって、ここで給仕なんかしてるの?」

「言うもんですか!」

 ルイズは頑として事情説明を拒む。それだけ重要な秘密なのだ。当然、ここで給仕をしていること自体、学院のみんなに知られては困るわけで。
 今日の料理と酒は、全てルイズのおごりということになった。

「ここに書いてあるの、とりあえず全部」

 メニュー丸ごと注文するという、なかなか貧乏貴族には縁がない豪遊をする五人。ギーシュやモンモランシーほど貧乏ではないキュルケやタバサも楽しんでいるようだが、マリコルヌは少し不満だった。ただ飲み食いするだけでは、この店に来た意味がない。
 彼はルイズを手招きして、

「なあ。この店って、女の子のサービスが売り物なんだろ?」

「そうよ」

「じゃあ、お酌を頼むよ」

「......わかったわ」

 ルイズがマリコルヌに酒を注ごうとすると、

「ちょっと待った! なんで可愛い女の子いっぱいのお店に来てまで、ルイズのお酌なんだよ!」

「......なあに? まるで私が可愛くないみたいな言い草ね......?」

「そ、そうじゃないけど! ほら、ルイズとは毎朝食堂で顔あわせてるじゃないか。せっかくだから、ここでしか会えない女の子の酌で飲みたいな、って思ってさ。だからさ、店一番の女の子を呼んできてよ」

「......わかったわ」

 案外素直にマリコルヌの頼みを聞き入れて、いったんルイズは厨房へと引っ込んだ。次に出てきた時、彼女が連れてきたのは、可愛らしい少女だった。
 ストレートの長い黒髪が美しく、太い眉は、活発な印象を与える。そして何より、胸元の開いた緑のワンピースからのぞく女性特有の谷間は、男性の目を釘付けにするに十分な魅力を持っていた。

「ジェシカです。わざわざ御指名ありがとうございます」

 ニコニコと微笑み、マリコルヌに酌をするジェシカ。
 同じお酒なのに、彼女が注ぐだけで、味まで美味しくなった気がする。

「あら、お客さま。いい飲みっぷり。さすがは貴族のご令息。嬉しいわ、こんな殿方にお酌させていただけるなんて」

 ジェシカにのせられて、マリコルヌは、どんどん杯をカラにしていく。
 いつしかジェシカは、片手をテーブルの上に投げ出していたので、マリコルヌは手を握ろうとするが、そうすると彼女はスーッと手を引っ込めてしまう。彼女の手に触れられるのは、チップを握らせる時だけ。

「まあ! こんなに頂いちゃって、いいのかしら!」

「もちろんだよ! だって、君、可愛いもん!」

 チップを与えさえすれば、ジェシカも、優しく握り返してくれるのだ。マリコルヌは、ついついチップを奮発して......。
 ふと気がつくと、マリコルヌは、すっからかんになっていた。酒場に来る、ということで、結構な金額を持ってきていたのに。
 すると。

「あ! いけない! 料理が焦げちゃう! 戻らなきゃ!」

「え? ちょっとジェシカちゃん、そんな殺生な......」

 マリコルヌの手を払いのけ、テーブルから立ち去るジェシカ。

「ひ、ひどいや! ぼ、ぼ、僕の気持ちを弄んだな!」

 思わず立ち上がってマリコルヌが叫べば、ジェシカは厨房まで戻れずに、途中でバタンと倒れた。しかし、もちろんマリコルヌの絶叫は無関係であり、彼女は突然、原因不明の睡魔に襲われたのだ。
 ふと周りを見回せば、他の者たちも気を失っている。普通に酔いつぶれている者もいるだろうが、それだけではなさそうだ。ちゃんと意識を保っている者は、マリコルヌとギーシュと......。

「大変めぽ!」

「闇の力を感じるみぽ!」

 隠れていた服の間から顔を出す、二匹の使い魔たち。
 こうなると、いつものパターンである。

「ふふふ......。今日は少し待ってやったのだ。これだけ遊び騒げば、もう思い残すこともないだろう?」

 不敵に笑いながら、女エルフが店に入ってきた!

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 二人が変身し、女エルフは怪物『ねふてす』を作る。ここまでは今までと何ら変わりはないが......。

「今までは無機物を使ったから、いけなかったのだ! どうだ、これなら戦えないだろう!」

 今回は、なんと店の女の子が『ねふてす』にされてしまった! どうやら意識を失った人間であれば、普通に『ねふてす』にできるらしい。
 なお、かわいそうに怪物にされてしまった女の子は、ちょうど近くに倒れていたジェシカだった。

「ネ〜フテ〜ス!」

 太い眉を吊り上げて、豊かな胸を揺らして、恐ろしい咆哮をあげる怪物。人間だった頃の面影が残っており、たしかに戦いにくい相手だ。

「困った。史上最大のピンチだ。今日の僕はお手上げだよ」

 ギーシュは肩をすくめて、早くも戦意喪失。
 しかしマリコルヌは、逆に闘志満々だった。

「ジェシカ! 君は......。たとえ仕事でも、僕のことなんか、相手にしてくれなかったじゃないか!」

 いや、ちゃんと普通に金額分のサービスは受けたはずだが。
 最後が最後だっただけに、マリコルヌの心に刻まれた思い出は、あまり良いものではなかったらしい。
 だから一切の躊躇はなかった。

「純情童貞の情熱の風、受けてごらん! ヘンキュア・ウインディ・ストライク!」

 現時点での最大の必殺技を叩き込み、怪物を浄化。なお、もとの少女に戻って崩れ落ちるジェシカを抱きとめたのは、マリコルヌではなく、ギーシュだった。

「......くっ。生身の女にも攻撃をためらわぬとは......。その非情さを読み切れなかったのが、今回の敗因!」

 ちょっと勘違いして、女エルフは去っていく。
 そして。

「......あれ? あたし......」

 ギーシュの腕の中で意識を取り戻したジェシカと、ちょうど目覚めてすぐに、それを目撃することになったモンモランシー。
 当然のように、ちょっとした騒動が持ち上がったわけだが......。
 マリコルヌは、ざまあミロ、と静観するだけであった。

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 第九話「未来は勝ち負けだけじゃない!? いざ本格的な戦争へ!」


 夏休みが終わって二ヶ月が過ぎた頃。
 アルビオンへの侵攻作戦が、魔法学院に発布された。
 何十年か振りに遠征軍が編成されることとなり、貴族学生も士官として登用されることになった。
 元帥の息子であるギーシュは、当然のように王軍へ志願。マリコルヌも、ギーシュが行くなら、ということで志願。二ヶ月ほどの即席の士官教育の後、それぞれ各軍への配属が決まったのだが......。

「え? 一緒じゃないの?」

「そのようなだね。僕は僕でがんばるから、君もしっかりやりたまえ。マリコルヌ」

 なんと二人はバラバラに。
 戦争の途中で女エルフが攻めて来たらどうしよう、と心配するマリコルヌであったが......。

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 心配していたような事態は起こらずに。
 トリステイン・ゲルマニア連合軍は、無事、アルビオンの港街ロサイスを占領。さらにシティオブサウスゴータまで制圧したところで、降臨際により一時休戦となった。

「ようやく一休みだ。これでギーシュとも会えるかなあ?」

 かりそめの平和を楽しむ街の喧噪の中。
 マリコルヌが通りをぶらぶらしていると......。

「あれは何みぽ?」

 ひときわ騒々しい集団が、仮設された壇の上で何やらイベントをやっている。中心にいるのは、お偉い将軍様か何かのようだ。

「ああ、勲章の授与か何かだね。僕には関係ないよ」

「でも......ギーシュがいるみぽ?」

「えっ?」

 驚いたマリコルヌが近寄ってみれば。
 たしかに、そこにはギーシュの姿があった。お偉いさんから、勲章を受け取っている。
 割れんばかりの拍手の中、よく似た顔の青年も出てきて、ギーシュを抱擁し、頭をガシガシ撫でていた。
 グラモン元帥の末っ子だそうだ、今出てきたのは次男で......、やっぱり獅子の子は獅子だ、などなど。あちこちからギーシュへの賛辞も飛んでいる。

「すごいみぽ! マリコルヌも何か貰えるみぽ?」

「いや、僕は......」

 マリコルヌだって頑張ったつもりだが、大きなほうびを貰えるほどの手柄を立てた記憶はない。というより、何か貰えるのであれば、あらかじめ通達があるだろう。何も知らされていない、ということは......。そういうことなのだ。

「みぽ? マリコルヌ、なんだか寂しそうみぽ。ギーシュが褒められてるんだから、マリコルヌも、もっと喜んだほうがいいみぽ」

「うん、うん。それはそうだけど......」

 なんで差がついたんだろう、とマリコルヌが切なく思っていたら。
 周囲の人々がバタバタと倒れてゆく。

「これって、もしかして......」

 間にあった人垣が消えたことで、ギーシュの方でも、マリコルヌの存在に気がついた。

「マリコルヌ! そこにいたのか!」

「ギーシュ! 変身だ!」

 もう使い魔たちの言葉を待つまでもない。マリコルヌがギーシュに駆け寄ると、ちょうど女エルフも現れた。

「フフフ......。大きな名誉を手にし、この世の春を謳歌した今! もう思い残すこともないだろう!」

 二人が変身している間に、女エルフは、ギーシュの杖付白毛精霊勲章を『ねふてす』に変えてしまう!

「ああ! 大事な勲章が!」

 変身直後、いきなりがっくりと膝を落とすギーシュ。
 どうやら今回も、ギーシュはまともに戦えないようだ。
 ならば。
 ギーシュとは違って『思い残すこと』だらけのマリコルヌが、ギーシュの分まで戦うしかない!

「純情童貞の情熱の風、受けてごらん! ヘンキュア・ウインディ・ファイヤー!」

 孤軍奮闘のマリコルヌが必殺技を発動させ、怪物『ねふてす』を浄化。ギーシュの勲章は、もとの輝きを取り戻した。

「......くっ。やはり蛮人どもが殺し合いをしている間は、へたに手を出さずに様子見が正解だったか......」

 タイミングが悪かったのだ、と言わんばかりの負け惜しみを吐いて。
 女エルフは、いつもどおり逃げていった。

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 第十話「みんなの応援が待ってる!? 結成式は大騒動!」


 アルビオンとの戦争は、誰もが予想していなかった形で終わりを迎えた。
 市内で起こった反乱により、連合軍は総崩れとなり、敗走。
 一方アルビオン軍も、突如参戦してきたガリア艦隊に本陣を急襲され、壊滅。
 結果的には、連合軍の勝利で幕を閉じたのであった。

「ミスタ・コルベールが!?」

 無事に生きて学院に戻ったマリコルヌやギーシュたちは、そこで悲報を知らされる。彼らが留守の間に、魔法学院はアルビオンの別働隊に襲撃され、生徒を守って戦ったコルベールが命を落としたそうだ。
 そして。 
 悲しみは、さらに続く。

「サイト......いなくなっちゃったね」

「ああ。僕は......例の噂を信じているよ」

 ルイズの使い魔として従軍していた才人は、戻って来なかった。噂では、連合軍敗走の際、一人でしんがりを引き受けて、アルビオンの大軍相手に、壮絶な討ち死にをしたのだという。彼の犠牲があったからこそ、撤退する時間が稼げたのだという。
 ギーシュはマリコルヌは、撤退時に敵軍の追っ手が遅かったことを戦場で感じ取っていたし、また、ルイズの使い魔として才人が特殊な能力を持っていることも知っていたので、その噂を信じて疑わなかった。ギーシュなどは、学院の敷地内に才人を称える彫像を作ろうとしたくらいである。
 ところが。
 それからしばらくして、才人の生存を信じてアルビオンへ出かけたルイズが、彼を連れてひょっこり戻ってきた。
 彼らを知る者たちは、多いに喜んだ。
 しかも......。

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 朝もやの中。
 ヴェストリの広場に並ぶ少年たち。
 その前に立つは、才人とギーシュ。

「お前、隊長だろうが。ちゃんと挨拶しろよ」

「うう......」

 新設の近衛隊、水精霊騎士隊(オンディーヌ)の結成式なのであった。
 いわばこれは、才人のために作られた騎士隊である。アルビオン戦役における功績により才人は貴族に抜擢され、騎士隊を一つ預かることとなった。しかし平民上がりがいきなり隊長では色々と風当たりも強い、ということで、才人は副隊長、ギーシュを隊長としているのだ。

「では、僭越ながら......」

 才人に小突かれたギーシュが、隊員たちの前で挨拶を始める。まあ隊員たちといっても、皆、学院の生徒であり、気心の知れた仲間ばかり。そんなに緊張する必要はないのだ。
 由緒ある『水精霊騎士隊(オンディーヌ)』という名前を冠されたために、最初は緊張しまくりのギーシュだったが、いざスピーチを始めてしまえば、だんだんリラックスしてきた。
 隊員たちだけではない。広場から少し離れたベンチには女子生徒も座っており、こちらを見ているのだ。せいぜいカッコよいところを見せなければならない......。

「......ギーシュ! ......ギーシュったら!」

 朗々と挨拶を続けていたギーシュは、マリコルヌに呼ばれ、我に返った。

「なんだね? 今いいところなのに。マリコルヌ、君も騎士隊の一員なら、隊長の挨拶を邪魔しちゃダメじゃないか」

「そうじゃなくて! ギーシュの挨拶、長すぎるよぉ。ほら、みんな退屈で眠っちゃってるよ」

 言われてみれば。
 目に見える範囲内で、立って起きているのはギーシュとマリコルヌのみ。副隊長の才人までもが、その場に崩れ落ちてイビキをかいている。

「やれやれ。これは隊の規律を厳しくしないと......」

「違うめぽ! 闇の力を感じるめぽ!」

「そろそろ二人とも気づかなきゃダメみぽ! いつものパターンみぽ!」

 ギーシュを遮る二匹の使い魔。
 それが聞こえたかのように。

「フフフ......。光の戦士も出世したものだな。だが人生の絶頂期で死ねるというのも、幸せな話ではないか!」

 女エルフが現れた!

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「デュアル・ヘンタイ・ウェーブ!」

「......この地を漂いし闇の精霊よ。我の呼びかけに応じて、このものに力を分け与えたまえ......」

 二人は『へんきゅあ』に変身し、女エルフは怪物『ねふてす』を作成。

「ネ〜フテ〜ス」

 なんと今回『ねふてす』にされてしまったのは、ギーシュの傍らで倒れていた才人である!

「どうだ。友が相手では、戦いにくかろう? それにこの男、ただの蛮人ではないのだろう?」

 女エルフの言うとおり。
 怪物と化した才人が剣を振るだけで、太刀筋に沿って、広場の芝生が吹き飛んだ。それほどの剣速だった。

「むむむ。僕もサイトと戦うのは初めてだが......。これは相当な強敵のようだな」

「ギーシュ! そんなこと言うひまあったら、ドンドン攻撃しようよ!」

 いつぞやのゼロ戦とは違い、才人の防御力は人並みのはず。
 攻撃は最大の防御とばかりに、二人は肉弾戦を挑んだが......。

「は、はやい!?」

「『へんきゅあ』の力を超えてる!?」

 才人のスピードは、二人の想定外だった。ギーシュのパンチも、マリコルヌのキックも当たらない。逆に、才人の反撃は的確に二人を捉えていく。

「だめだ。これは......必殺技で一気に決めないと......」

「ギーシュ。なら僕に任せて。僕のウインディ・ファイヤーは熱風だから、広範囲の攻撃も......」

 素早い敵に対しては、ピンポイントで直撃させるより、少しでも広い範囲を攻撃できる方がいい。そう考えてマリコルヌは提案したのだが。

「いや、マリコルヌ。ここは......僕にやらせてくれ」

 ギーシュはマリコルヌを制止し、チラッと周りを見回した。
 辺りに倒れているのは、騎士隊のメンバーたち。そして、応援してくれる女子生徒たち。
 これを守るのは、隊長であるギーシュの役目。
 しかも。
 敵として目の前に立ちはだかっているのは、副隊長である才人。

「これは......僕が乗り越えなきゃいけない壁なんだ」

 水精霊騎士隊(オンディーヌ)結成の経緯は、ギーシュもよく知っている。
 たしかにギーシュには家柄も戦果もあり、だからこそ才人の代わりに隊長として選ばれたわけだが、あくまでも『才人の代わり』なのだ。本当に女王陛下が隊長としたかったのは、ギーシュではなく才人なのだ。

「......政治的な理由で譲られた隊長職を甘んじて受け入れるなど、騎士の恥。余人はともかく、この僕だけは......一度サイトに勝っておかねばならないのだ! 水精霊騎士隊(オンディーヌ)の隊長として!」

「ギーシュ......」

 ここまで言われてしまえば、マリコルヌとしても、もう黙るしかなかった。騎士隊結成の日に才人と戦えるというのは、ギーシュにとっては、神様が与えてくれたチャンスなのだ。

「わかった。君に任せるよ。がんばれ、ギーシュ!」

 マリコルヌの言葉に、ギーシュは一つ頷いてから。

「行くぞ、サイト!」

 迫り来る『ねふてす』才人の動きに、ギーシュは精神を集中する。敵は、どのようなルートでこちらまで辿り着くのか。こちらが攻撃したら、どう敵は避けるのか。すべての行動を、しっかりと読み切って......。

「邪悪な力を包み込む、大地のバラを咲かせよう! ブラッディ・ローズ・アース・ブリザード!」

 この一撃に賭ける想いが、ギーシュの必殺技を進化させた。
 彼本来の土の力を、『へんきゅあ』の光の力にのせて。
 母なる大地を象徴するかのような、巨大な薔薇が、ギーシュの杖の先から飛び出す。薔薇は見事に怪物を包み込んで浄化、もとの才人へと戻した。

「......くっ! 悪魔の守り手の力まで利用したというのに! それでも勝てんのか!」

 ギーシュやマリコルヌには意味がわからぬ捨てゼリフを吐いて、女エルフは去っていった。

「ギーシュ。よかったね」

「ああ。これで僕も......胸を張って、水精霊騎士隊(オンディーヌ)隊長に就任できるよ」

 ギーシュの顔は、朝空のように晴れ渡っていた。
 なお。
 この後、目を覚ました才人は、謎の筋肉痛に悩まされた。最近ガンダールヴの力など使ってないのに変だな、と思ったが、才人に真相を告げる者は誰もいなかった。

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 第十一話「騎士隊はロマンスの香り!? かわいい子豚は強い勇気をまとって!」


 水精霊騎士隊(オンディーヌ)の人気は最近、うなぎのぼりである。
 今日も騎士隊のたまり場には、女子生徒の黄色い歓声が飛び交っていた。

「さて、アーハンブラの城についた僕は、部下どもを指揮してガリア軍を眠らせた! そこでとうとうエルフの登場ときたもんだ!」

「きゃあきゃあ!」

「僕は恐れずに、『おい長耳野郎。命が惜しかったら、姫を置いて......』」

 女子生徒たちを前にして、いい気になって語るマリコルヌ。
 彼が語り聞かせているように、水精霊騎士隊(オンディーヌ)は少し前に、ガリアまで行ってきた。実は生きていたコルベールの協力もあって、精鋭メンバーが秘密裏にガリア奥地まで潜入、ビダーシャル卿というエルフを退け、ガリア王家に囚われたタバサを助け出してきたのだ。
 もちろん、マリコルヌのストーリーは、現実にあった出来事とは微妙に異なる。ビダーシャル卿を倒したのは、才人とルイズの活躍あってこそだし、そもそもマリコルヌは、ビダーシャル卿とはほとんど戦っていない。だがマリコルヌは、日頃『へんきゅあ』として何度も女エルフの相手をしてきたので、自分がエルフを倒すストーリーもあながち嘘ではないと信じ切っていた。
 さて。

「ぎうほッ!」

 調子に乗って語り続けていたマリコルヌは、才人に蹴り飛ばされてしまう。色々と秘密な内容まで話し過ぎたからだ。
 これもマリコルヌにしてみれば、『へんきゅあ』という最大の秘事を隠し通している以上、ほかのことはもうどうでもいいじゃないか、と、心も口も緩くなっているわけだが......。

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 騎士隊のたまり場には、いつも黄色い歓声が鳴り響いている。女の子がいっぱいなので、マリコルヌも幸せだが、よく考えてみると、人気の中心はギーシュや才人だ。

「......なんで僕の周りには、女の子が集まらないのだろう?」

 人気者が同席していない時は、マリコルヌも女の子たちに囲まれているのだが、才人たちが来ると、女子生徒の群れは、そちらへ行ってしまう。
 不思議だ。
 ......などとマリコルヌが考えていたら。

「あの......マリコルヌさま......」

 清楚な感じの少女に、声をかけられた。マントの色からして、一年生だろう。ブルネットの髪を小さくまとめた、なかなか可愛い少女だった。

「何かな?」

「あ、あの......これを......」

 少女は、恥ずかしそうに小さなバスケットを差し出した。
 中から、香ばしい匂いがする。白地にハート模様の可愛らしいペーパータオルに包まれているのは、焼きたての手作りクッキーらしい。

「ああ、差し入れだね。騎士隊全員へ? それとも、誰かお目当ての人がいる? 代わりに渡してきて欲しいの?」

「ち、違うんです」

 少女は小さく首を振って、上目遣いでマリコルヌを見つめた。

「マリコルヌさまに......」

「えっ!? 僕に!? まさか!」

 信じられない、というマリコルヌに、

「『まさか』じゃないです! マリコルヌさまは素敵だから......『あなたが大好き!』って誰かが思ってるんです! ......きゃっ、言っちゃった!」

 少女は真っ赤な顔でバスケットを押しつけると、逃げるように去っていった。

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 マリコルヌは、一人、部屋に戻った。
 バスケットには『マリコルヌさまへ。ブリジッタより』というカードが入っていたので、たしかにマリコルヌ宛だったようだ。
 もらったクッキーを食べながら、さきほどの出来事を振り返ってみる。

「『あなたが大好き!』って誰かが思ってる......? どういう意味だろう?」

 額面どおりに受けとれば、マリコルヌを好きな『誰か』が、どこかにいるということだ。
 しかし......『誰か』って誰だ? あの少女は、なぜ、あんなに顔を赤らめていたのだ?

「マリコルヌ。ひとつ教えてあげるみぽ。人は恥ずかしい話をする時、自分じゃなくて、まるで他人のことのように話すみぽ」

 使い魔の言葉で、ハッとするマリコルヌ。
 そうだ。『これ友だちから聞いた失敗談なんだけど......』ってやつは、たいてい、その語り手自身の経験談なのだ。
 ならば。これも同じケースだ。マリコルヌを好きな『誰か』とは......あの少女自身なのだ!

「どうしよう......?」

 突然降って湧いた幸運に、ちょっと焦ってしまうマリコルヌ。

「悩む必要ないみぽ! マリコルヌの方から『つき合ってください』と言えばいいみぽ! こういうことは男の方から言うべきみぽ!」

「そ、そうだね......」

 クヴァーシルの言うことには一理ある。
 だが......。 
 いざとなると緊張してしまう。
 今までマリコルヌは女の子に告白したことは何度もあった。ただし、それは一方的な片想いばかりで、最初から成就する可能性ゼロのものばかり。今回のように、あからさまに脈があるというのは、初めてのケースだ。
 成功の可能性が高い告白なら、ある意味、気楽なはずだが......。数少ないチャンスかと思うと、逆に緊張してくる。今までの『あたってくだけろ!』とは事情が違うのだ。

「マリコルヌ! 勇気を出すみぽ! 勇気を出して告白すれば、かわいいガールフレンドが手に入るみぽ!」

「そ、そうだね......」

 男マリコルヌ、一世一代の瞬間が訪れようとしていた。

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 夜。
 マリコルヌは、誰もいない騎士隊たまり場に、ブリジッタを呼び出した。

「ブリジッタ。君のために詩を書いてきたよ」

「まあ、素敵。読んでいただけますか?」

「うん」

 マリコルヌは、ごそごそと紙を取り出し、

「......僕の丸い腹も、君との夜を照らす双月の片割れとならん......」

「素敵な詩ですわ。マリコルヌさま」

 ブリジッタは、うっとりとした表情で聞いている。ああ、今がチャンスだ、とマリコルヌは思った。

「ブリジッタ。お願いがあるんだ。僕と......」

 しかしマリコルヌは、最後まで言うことは出来なかった。なんと途中で、ブリジッタが失神してしまったからだ。

「ひ、ひどいや! 僕の告白が、そんなにショックだったなんて!」

「違うみぽ! 闇の力を感じるみぽ!」

 隠れていた使い魔が顔を出す。
 そう、これもいつものパターンだ。

「フフフ......。なんだか邪魔をしたようで済まないが、これも光の戦士の宿命だと思って、諦めてくれ」

 女エルフが現れた!

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「......この地を漂いし闇の精霊よ。我の呼びかけに応じて、このものに力を分け与えたまえ......」

 女エルフが怪物を作成している間に、ギーシュも駆けつけてきた。早速変身する二人であったが......。

「なんだ!? この弱そうな『ねふてす』は!?」

「ギーシュ。僕には、むしろ強そうに思えるのだが......」

「どうだ! その手紙に渦巻く邪念......利用させてもらったぞ!」

 今回『ねふてす』の核にされたのは、マリコルヌが書いてきた詩。マリコルヌとしては邪念などこめたつもりはないのだが、

「僕の〜丸い腹には〜君への〜愛が〜詰まって〜」

「な、なんという恐ろしい攻撃だ! 頭が割れそうだ!」

「やめろーっ! 読まないでくれーっ!」

 怪物から飛び出した詩の文面により、ギーシュは精神を汚染され、マリコルヌは恥ずかしさで死にそうになる。
 これはモタモタしていられない。逢瀬の続きも待っているのだ、一刻も早く倒さねば!

「純情童貞の情熱の風、受けてごらん! ヘンキュア・ウインディ・ストライク・カルテット!」

 心の中でたぎる熱い想いが、マリコルヌの必殺技をさらにパワーアップさせた。
 熱い風球の四連撃が、怪物『ねふてす』に次々と直撃。闇の力を浄化して、もとの恥ずかしい詩へと戻した。

「くっ! 邪念を生み出した者には、その邪念も通用しないということか......」

 今日も女エルフは逃げてゆく......。

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「......ブリジッタ! 目を開けておくれ、ブリジッタ!」

 ブリジッタは、マリコルヌに揺り動かされながら、彼の腕の中で意識を取り戻した。

「マリコルヌさま! わ、私......」

「緊張して気絶しちゃったみたいだね。もう大丈夫かな?」

「は、はい......」

 ブリジッタにとって、マリコルヌに抱かれているのは、なんとも心地よかった。彼の腹のふくらみは適度なクッションであり、マリコルヌは最高のゆりかごとなっていたのだ。
 だが、いつまでもこうしてはいられない。ブリジッタが背筋を伸ばすと、マリコルヌも姿勢を正して、

「よかった。じゃあ、聞いて欲しい。ブリジッタ。僕のガールフレンドになっておくれ」

「......喜んで」

 こうして。
 二人はカップルになった。

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 第十二話「両手にいっぱい全部もみたい!? 史上最大のバスト!」


「ご下命が来たぞ! 我が水精霊騎士隊に、陛下のご下命だ!」

 水精霊騎隊(オンディーヌ)の面々は、アルビオンへと向かうことになった。
 以前のガリア行きとは話が違う。あの時は、むしろ女王陛下に逆らってまで出かけたのだが、今回は女王陛下の御意志である。
 ウエストウッド村に住むティファニアという少女をトリステインへ連れてくるのが、今回の任務であった。
 ウエストウッドは小さな村なので、騎士隊全員で押し掛けるのは、かえって不都合。ティファニアと面識があるため、ルイズも同行。アルビオンへのアシとしてシルフィードを借りたため、タバサとキュルケも同行。
 というわけで、現在。
 ギーシュ、マリコルヌ、才人、ルイズ、タバサ、キュルケの六人が、ウエストウッド村までやって来ていた。

「こ、ここがその、胸が不自然なハーフエルフが住むという村だな」

「そういう言い方すんなよ」

「そうだよ、ギーシュ。サイトが言ってるのは、大きいって意味だろ。ちゃんと『大きい』とか『立派』とか『女性的』とか言わないと失礼だよ」

 近くに胸の小さな女性が二人もいることを忘れて、言いたい放題のマリコルヌ。
 女性陣から険悪な空気が漂う中、ギーシュはティファニアの家に入っていく......。

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 ティファニアは、たしかに胸の大きな女性だった。史上最大のバスト、と言ってもかまわないくらいだ。
 なぜか家には盗賊フーケもおり、一触即発の雰囲気にもなったが、ティファニアの仲裁でその場は収まり。実はティファニアの親代わりだったフーケも、ティファニアのトリステイン行きに賛成してくれてから、立ち去ったので。

「ほら、簡単な任務だったじゃないか」

「安心しちゃダメだよ、ギーシュ。学院に帰るまでが任務だよ」

 一行は今、ティファニアと彼女の仲間の孤児たちを連れて、帰り道を歩いていた。
 そこに。

「ぎぃやああああああああ!」

 響き渡る悲鳴。
 高さ二十メイルはあろうかという巨大な剣士人形が、彼らを襲ってきたのだ。ガリアのミョズニトニルンが操る、ヨルムンガントである。

「ワルキューレ! あいつをやれ!」

 ギーシュの青銅ゴーレムは、あっけなく蹴散らされた。

「なら僕の風で......」

「今度はあたし!」

 マリコルヌの風魔法も、キュルケの炎も通用しない。
 ここで、村に残っていた才人が、タバサとともに遅れて駆けつけてきたが......。

「切れねえ!」

 才人の剣戟も、ヨルムンガントには弾かれてしまう。
 絶体絶命の大ピンチ。
 しかしこの時。
 ヨルムンガントの動きがピタリと止まった。

「今だ! 隊長として命令する! 一斉攻撃だ!」

「......ギーシュ。誰も聞いてないよ」

 呆れたようなマリコルヌの声に、周りを見渡せば。
 才人もルイズも他のみんなも、地に倒れ伏して、グーグーお休み中。

「ああ。これは......」

「いつものパターンだね」

 使い魔たちの言葉を待つまでもない。女エルフが現れた!

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「......この地を漂いし闇の精霊よ。我の呼びかけに応じて、このものに力を分け与えたまえ......」

 二人が変身している間に、女エルフも怪物を作成。今回は強敵ヨルムンガントが『ねふてす』にされてしまった。

「ギーシュ、どうしよう!? ただでさえ恐ろしい化け物だったのに......」

「冷静になれ、マリコルヌ。もとが何であれ、『ねふてす』は『ねふてす』だ。いくら分厚い鎧をまとっていても、気にすることはない」

 怪物が振り下ろす巨大な剣を、『へんきゅあ』のスピードで軽々と避ける二人。
 そして......。

「邪悪な力を包み込む、大地のバラを咲かせよう! ブラッディ・ローズ・アース・ブリザード!」

 ギーシュの必殺技が炸裂。浄化された『ねふてす』は、ただのヨルムンガントに戻った。

「......くっ! エルフの技術まで利用された巨大騎士人形を核にしたところで、『ねふてす』になってしまえば、浄化されて終わりということか......」

 重要なヒントの含まれた捨てゼリフを吐いて、女エルフは去っていった。

「ねえ、ギーシュ。今『エルフの技術』とか言っていたような気が......?」

「ああ。どおりで頑丈なわけだ」

 もとに戻したとはいえ、ヨルムンガントはヨルムンガント。二人は、すぐには変身を解かずに、

「今のうちに、少しでも破壊しておこう」

「そうだね。いくら硬いとはいえ、『へんきゅあ』の必殺技なら、少しは効果あるかも......」

 まだ動き出さない騎士人形相手に。
 二人は必殺技を連打し始めた。

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「相棒! しっかりしろ!」

 愛剣デルフリンガーの声で、才人は目を覚ました。敵の攻撃で吹き飛ばされたからであろうか、どうやら気を失っていたようだ。
 仲間たちも倒れているが、次々と起き上がってくる。ギーシュとマリコルヌは、起きる気配もないが......。

「ああ、大丈夫だ。こんなところで寝てらんねーからな」

 心を震わせ、ルーンを光らせ、ヨルムンガントに斬りつける。さきほどの一撃は弾かれたが、これは少し手応えがあった。

「お! ちょっと休んだだけで、気力が回復したみたいだぜ」

「あたしの精神力もアップしたのかしら? 炎が効き始めたわ!」

 表面をわずかに焦がす程度だったキュルケの炎も、今度は、明らかに中まで届いている。

「よし、この調子で攻めるぞ! キュルケ! タバサ!」

 精神力枯渇気味で虚無魔法が使えぬルイズは、今回はお休み。才人とキュルケとタバサの三人による猛攻で、見事ヨルムンガントを撃破した。

「こ、こんなはずでは......?」

 ミョズニトニルンは納得がいかぬようだったが、それもそのはず。ヨルムンガントの重装甲を削ったのは、この世界の魔法ではなく、『へんきゅあ』の光の力だったのだ。
 隠れた最大の功労者である二人は、疲れ切っていたため、戦いが終わるまで起きてこなかった。だから事情を知らぬ才人たちは、二人を役立たずだと思うのであった。

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 第十三話「乳揺れまくり!? 大胆不敵に行くよ男の子!」


 水精霊騎士隊(オンディーヌ)の人気は、最近ますます、うなぎのぼりである。
 ベアトリスがティファニアをいじめる現場に出くわし、ベアトリスおかかえの空中装甲騎士団(ルフトパンツァーリッター)と一戦を交えたことで、水精霊騎士隊(オンディーヌ)の人気は、もう青天井を突き抜けるほどにまで高まっていた。

「すごい花束だな!」

「考えものだな! モテすぎるというのも!」

 男たちの自慢話でわく騎士隊たまり場であったが......。
 副隊長の才人だけは、部屋の隅っこで、一人で暗くなっていた。
 またルイズとケンカしたのだ。
 これはいけない。みんなで慰めよう、という話になり......。

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 今。
 騎士隊メンバーは、本塔の地下を掘り進んでいた。目指すは女子風呂。早い話が、覗きである。

「貴族として恥ずかしいと思わんのかね? 女子風呂を覗くだなんて......」

「まだ言ってるのか、ギーシュ。もう遅いよ」

 首謀者はギムリ。風呂は当然のように『固定化』の呪文で守られているのだが、風呂の図面を入手した彼は、地下に埋まった壁石に『固定化』のかかっていない場所を見つけたのだった。

「しかし......」

 ギーシュは、この覗きに反対である。本来ならば彼もこういうのは大好きなのだが、『へんきゅあ』として正義の活動をするうちに、常識的な人間になりつつあるらしい。
 同様に、マリコルヌも反対。また、もともと常識人のレイナールも反対した。しかし全騎士隊員のうち三人しか反対せず、肝心の才人も意思表示しない状態では、この流れを止めるのは不可能というもの。

「さあ、ここだ!」

 とうとう、目的地に到達したらしい。
 厚さ二十サントはあろうかという壁石に、交代しながら集中して『錬金』で小さな穴を開けて......。
 暗闇の中、一筋の光が差し込んだ。女子風呂まで小孔が通じたのだ。

「ついに止められなかったか......」

「あきらめようよ、ギーシュ。僕たちは精一杯の努力はしたんだ」

 落ち込むギーシュを慰めるマリコルヌ。ここで騒ぎ立てれば、まだ覗きを未然に防ぐことは出来るかもしれないが、それでは騎士隊の仲間が現行犯で捕まってしまう。そんな友を裏切るような真似だけは、二人もするつもりはなかった。

「では......僕たちは引き返そうか」

 覗きに参加するためではなく、あくまでも、覗きを止めるために来たのだ......。
 そのスタンスを崩さず、きびすを返そうとするギーシュ。
 ところが。

「待って!」

「何かね? まさかマリコルヌ、君まで女子風呂を覗こうと......」

「そうじゃない! 周りを見て!」

 ふと気がつけば。
 今まさに女子風呂を覗こうとしていた男どもが、皆、その場に倒れ伏していた。
 細心の注意で穴を開けたため、神経をすり減らしてくたばったのであろうか? いや、そうではない。魔法など使わなかった才人も、覗き反対派だったレイナールも、やはり気を失っている。

「まさか、こんなタイミングで......」

「でも、それしか考えられないよ!」

 顔を見合わせる二人。
 続いて、使い魔たちも。

「闇の力を感じるめぽ!」

「あっちみぽ! この壁の向こうから感じるみぽ!」

 彼らが指し示す方向から、いつもの声も聞こえてきた。

「フフフ。待っていたぞ、光の戦士たち!」

 ああ、なんということだ。女エルフが今回の戦場として選んだのは、女子風呂だったのだ!

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「しかたない。行こう!」

 ギーシュとマリコルヌは、人が通り抜けられるくらいの穴を開けて、女子風呂へ突入した。
 立ちこめる湯煙の中。
 二人の目に飛び込んで来たのは、気絶した裸の少女たち。さいわい、彼女たちは皆、仰向けではなくうつぶせで倒れているので、見てはいけない部分は、ちょうど床で隠されている。

「マリコルヌ! 何をやってるんだ!?」

「ハッ! いけない! ついつい誘惑に負けて......」

 頭を床に擦り付けるようにして、目線を下げて何やら覗き込んでいたマリコルヌは、ギーシュの叱責で自分を取り戻した。
 なんという恐ろしい場所だろう。男心をくすぐる罠がいっぱいだ。

「さあ、どうする光の戦士!」

 困惑する二人の様子に、自信満々の女エルフ。
 風呂場だというのに裸ではなく、いつもどおりの、どこかの水軍の士官服らしき格好だ。ただし、もともと体にフィットしていた服が、風呂場の湿気により、ますます体に張りついて、女性の曲線をあからさまに強調していた。

「どうするも何も......。と、とにかく変身だ!」

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「......この地を漂いし闇の精霊よ。我の呼びかけに応じて、このものに力を分け与えたまえ......」

 二人が変身している間に、女エルフも怪物を作成。今回『ねふてす』にされてしまったのは......倒れていた少女の一人、ティファニアだ!
 怪物と化したティファニアは、当然、起き上がってくるので。

「ああ、いかん!」

「ギーシュ、見ちゃダメだよ!」

 二人は、思いっきり顔を背けた。
 たとえ『ねふてす』となっても、ティファニアは、ティファニア。直接見ないようにしていても、ぼよんぼよんという音が聞こえてくる。

「......いったいどうしたら......」

「もしかしたら役得なのか? 見てもいいのか?」

「いやそれは違うぞ、マリコルヌ。ここで彼女の裸体を拝んでしまっては、あそこで寝ている連中と同じになる」

 ギーシュが杖で指し示したのは、女風呂を覗こうとしていた騎士隊の男たち。
 そうだ。自分たちは違う、というプライドが、マリコルヌにもギーシュにもあった。
 しかし。

 ばちんっ!

 敵を正視せずに戦うことなど、やはり難しい。二人は、一方的に攻撃を食らってしまう。見ないようにしているので詳細は不明だが、弾力のある塊で思いっきり叩かれたような感触だ。

「ギーシュ。この攻撃、むしろ気持ちいいような......」

「言うな、マリコルヌ。それ以上は。思っても、けして口にしてはいけないことだ。僕たちは紳士な貴族、プライドを保て!」

 ギーシュに制止され、頭を切り替えるマリコルヌ。
 この恐るべきおっぱい攻撃を繰り出す強敵に勝利するためには......。

「ギーシュ! 見ないようにするんじゃなくて、完全に目を閉じるんだ!」

「なんだと?」

「心の目だよ! 心の目で戦うんだ!」

「心の目......?」

「そう! おっぱいなら......目を閉じていても見える! だって僕たちは......男の子だから!」

 堂々と宣言して、マリコルヌは目を閉じた。
 半信半疑ながら、ギーシュも友に従う。
 すると......。
 完全なる暗闇の、無の世界にて。
 ボーッと浮かび上がってくる、白い果実の気配。
 一つ、二つ......。たくさんの果実が床に落ちているが、どれも違う。そんな中、命の躍動を主張するかのように動き回っているのは、ひときわ大きな果実! これこそがティファニアのもの!

「そこだ!」

 二人は同時に必殺技を放ち、無事『ねふてす』を浄化。もとの優しいティファニアへと戻した。

「心眼だと......? くっ、蛮人の男の生理を理解できなかった私の負けだ!」

 女エルフは逃げてゆく......。

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「ギーシュ。このままにはしておけないよね?」

「ああ。僕は『錬金』で壁の穴をふさぐから、君は騎士隊を起こしてまわってくれ。婦女子が目覚める前に立ち去るのが、正しい騎士の有り様だろう」

 変身を解いた二人は、それぞれ手分けして、作業を始めたが。
 まもなく、みんな意識を取り戻した。
 男たちだけでなく、女たちも。
 つまり。

「......あれ?」

 いつのまにか風呂場で眠ってしまった女生徒たちが目を覚ました時。
 風呂場の壁には穴が開いていて、穴のところではギーシュが『錬金』を使っていて、穴の向こうにはマリコルヌ以下の騎士隊メンバー。

「きゃあっ! 覗きだわ!」

「みんな急いで! 杖よ!」

「あんなに大きな穴を開けて覗きを行うなんて! なんて命知らず!」

 問答無用の現行犯である。

「ち、違うんだ! 僕は、穴をふさごうと......」

 ギーシュの弁明など、もちろん受け入れられなかった。真実なのに。
 こうして。
 水精霊騎士隊(オンディーヌ)は怒り狂った女子生徒たちからコテンパンにされ、彼らの名誉も、これ以上なく失墜した。
 ちなみに。
 ティファニアは意識を取り戻した際、胸に妙な違和感があったので、騎士隊討伐には参加せず、ゆっくり風呂に残ってコリをほぐしていた。おかげで、妙な違和感も翌朝には消えていたという。

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 第十四話「イケてない僕はヘコんでいいじゃん!? 童貞心は超ビミョー!」


「マリコルヌさまの嘘つき! そんな、そんな、お風呂を覗くような方だなんて存じませんでしたわ!」

 マリコルヌはフラれた。

「ち、違うんだ。あれは......」

「言い訳するんなんて! マリコルヌさまは人間のゴミですわ! ゴミ以下ですわ!」

「あ、ああ......」

 崩れ落ちるマリコルヌに浴びせられる、罵詈雑言の数々。
 すっかりヘコんでいるかと思いきや、なんだか喜悦の表情で痙攣している。彼の心の内は今、何とも微妙な状態らしい。

「......と、ともかく! マリコルヌさまとは、もうこれっきりですから! さようなら!」

 明確な別れ言葉を突きつけて、ブリジッタは去っていく。マリコルヌは、ただ地面に転がったまま、その後ろ姿を見送ることしか出来なかったが......。
 突然。

 パタッ。
 
 彼の視界の中で、少女の姿が倒れ伏した。

「まさか......!」

「マリコルヌ! 闇の......」

 ピンときたマリコルヌは、使い魔の言葉を遮って、

「どっちだ?」

「あっちみぽ。あっちから近づいてくるみぽ!」

 クヴァーシルが示すのは、魔法学院の正門。どうやら、まだ敵は外にいるらしい。

「わかった。じゃあ僕は外で迎え撃つ。クヴァーシルはギーシュを呼んできてくれ」

 マリコルヌは、あの女エルフを許せなかった。
 覗きの汚名を着せられたのは、あの女エルフのせい。ブリジッタと別れることになったのは、あの女エルフのせい。そう思ったからだ。

「みぽ? そんなに急がなくても、待っていれば来るみぽ。その間にきっとギーシュも来るから......」

「いいから! 早く呼びに行ってくれ!」

 マリコルヌの気迫に、もはやクヴァーシルも、否とは言えなかった。

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 ギーシュが戦場にたどり着いた時。
 マリコルヌは、おのれの杖一本で、女エルフと渡り合っていた。とはいえ、先住魔法を操るエルフに対して、マリコルヌ程度の風魔法が通用するわけもなく。

「マリコルヌ! しっかりしろ!」

「ああ、ギーシュ......」

 気合いと根性だけで戦っていたマリコルヌは、もうボロボロ。ギーシュの腕の中に崩れ落ちるような状態だった。

「ようやく来たか。遅かったな、光の戦士の片割れよ」

 女エルフが嘲りの声を浴びせかけるが、ギーシュは、それには構わず、

「マリコルヌ。なんでこんな無茶を......」

「許せないんだ。あの女エルフだけは......。どうしても......」

「もういい。ゆっくり休め。......と言いたいところだが。もうひと頑張りしてくれ。君がいなければ、僕は変身できん!」

「わかってる。これからが......本番じゃないか......」

 マリコルヌはフラフラと立ち上がり......。
 そして二人は変身する!

「デュアル・ヘンタイ・ウェーブ!」

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「......この地を漂いし闇の精霊よ。我の呼びかけに応じて、このものに力を分け与えたまえ......」

 二人が『へんきゅあ』に変身している間に、女エルフも『ねふてす』を作成。とはいえ、ここは何もない原っぱだ。草原の一部を核にするしかなかった。

「今日の相手は、ずいぶんと弱そうだな。初めて出てきたやつと同じじゃないか」

 余裕の言葉を吐きかけるギーシュだが、内心では、少し焦りもあった。なんとか変身まではしたものの、隣のマリコルヌは、既に立っているのも辛いありさまだ。ギーシュが抱えていなければ、今にも崩れ落ちるであろう。
 マリコルヌを休ませるためにも、ギーシュ一人で、さっさと倒してしまうしかない。

「邪悪な力を包み込む、大地のバラを咲かせよう! ブラッディ・ローズ・アース・ブリザード!」

 もともと大地から作り出された『ねふてす』など、大地の力を併せもつギーシュの敵ではなかった。巨大な薔薇に包み込まれ、あっというまに浄化される『ねふてす』......。

「......くっ! 予定とは違う場所で戦ったことが、今日の敗因か......」

 いつものように逃げ去ろうとする女エルフであったが。

「この瞬間を待っていた! もう逃さないぞ!」

 それまで弱っていたマリコルヌが、颯爽と復活。

「純情童貞の情熱の風、受けてごらん! ヘンキュア・ウインディ・ストライク・カルテット!」

「......しまった! 死んだふり作戦か! ぎゃあああああああっ!」

 不意を突かれて防御も出来ぬ女エルフに、マリコルヌの必殺技が炸裂。熱風で浄化されたエルフは、その場に崩れ落ちた。

「闇の力が消えためぽ! ただのエルフに戻っためぽ!」

「すごいみぽ! マリコルヌ、すごいみぽ!」

 興奮する使い魔たち。マリコルヌは片膝をつきながらも充実感あふれる笑顔を見せ、ギーシュは、予想もしていなかった展開に唖然とする。

「お......終わったのか? ついに? こんな......あっさりと?」

 ギーシュは、倒れているエルフに複雑な視線を向けた。
 これまでさんざん二人を苦しめてきたエルフだが、それも全て闇の力に操られた上での行動。こうして、ただの美少女エルフに戻ってしまえば......。
 そんな彼の視線が刺激になったのか。

「ここは......? 私は......いったい......」

 女エルフが意識を取り戻し、ふらふらと立ち上がった。
 ギーシュは、ハッとする。さきほどまでマリコルヌは彼女を強く憎んでいたようだが、大丈夫であろうか。闇の力が消えた今、もう彼女を憎むのも筋違いなのだが、マリコルヌはわかっているであろうか。
 そう心配して、マリコルヌを振り返れば。

「もうエルフでもいい! 抱いて! というか抱け!」

 憎しみとは違う感情で、彼女に飛びかかろうとしていた。
 なんと変わり身が早い......というより、これはこれで止めねばならぬ。

「待て、マリコルヌ! 彼女には事情がわからないんだ。混乱している婦女子に抱きつくのは貴族の名折れ......」

「げふっ!?」

 わざわざ止める必要もなかったらしい。マリコルヌは彼女に蹴り飛ばされ、指一本触れることは出来なかった。

「なんだ、この蛮人は! 汚らわしい! ......ん? そこにもう一匹いるのか!?」

 日頃ティファニアと接していると忘れがちになるが、もともとエルフと人間は水と油。しかも、ギーシュたちが戦ってきたこの女エルフは、エルフの中でも反人間感情の強い、鉄血団結党の一員。今までは闇の力に操られていたからこそ『光の戦士抹殺』が『蛮人ども皆殺し』に優先していたが、本来ならば人間を見つけしだい斬り捨ててもおかしくない性分だったのだ。

「ならば。なんだか知らんが......」

 女エルフが腰のサーベルを引き抜く。
 こうなると、『戦いは終わった』という感慨も一瞬で吹き飛んでしまう。ギーシュも杖を構えるのであったが......。
 突然。
 女エルフがグラリと倒れた。

「なんだ? また意識を失ったのか......? しかし、なぜ......」

「ギーシュ! これは闇の眠りの力めぽ!」

「いつものパターンみぽ!」

 使い魔二匹が慌て始めるが、ギーシュには意味がわからない。いつもその力を放っていた女エルフは既に浄化して、ある意味もっと危険な普通のエルフに戻したというのに、いったい誰が......?

「とてつもない闇の力を感じるめぽ!」

「これは......闇の力そのものみぽ!」

 そして。
 それはいきなり、彼らの前に現れた。

########################

 いつのまにか現れた男は、人間ではなく、エルフだった。全身には冷たい雰囲気をまとい、それでいて、吊り上がった目には不気味な輝きがあった。
 彼は、女エルフを抱き抱えると、

「まさかファーティマが敗れ去るとはな......」

 続いて、ギーシュとマリコルヌを見やって、

「お初にお目にかかる。我が名はエスマーイル。失態をしでかした同志少校を連れ戻しにきた」

 慇懃無礼な挨拶だ。これにヴェルダンデとクヴァーシルが過剰反応した。

「だ、だまされないめぽ!」

「お前はエルフなんかじゃないみぽ!」

「どういうことかね? 僕には、どう見てもエルフのように見えるのだが......?」

 首をひねるギーシュに、使い魔が説明する。

「外見を真似てるだけめぽ! あいつは......闇の力のかたまりめぽ!」

「この世界に具現化した闇そのもの......それがあいつの正体みぽ!」

「......さすがは光の妖精。一目で私の正体を見破ったか......」

 使い魔の言葉を肯定するエスマーイル。彼はエルフの国ネフテスにおいて、『エルフ』として鉄血団結党を作り上げ、組織の力を利用して光の戦士を捜索したり、党員に闇の力を分け与えて闇の幹部に仕立て上げたりしてきたのだった。

「つまり......彼こそが、いわゆるラスボスというやつかね?」

「低俗な言い方をすれば、そうなるかもしれんな」

 ヴェルダンデやクヴァーシルが答える早く、エスマーイルは、みずからギーシュの言葉を認める。
 同時に。
 もう隠していても意味がない、ということで、彼本来の闇の力を全開にする!

「くっ!」

 思わず一歩、ギーシュは後ずさりしてしまった。
 エスマーイルは、何も攻撃をしてきたわけではない。ただ、その存在感を明らかにしただけだ。だが、ただそれだけで、圧倒的な負の気配が、瘴気の風となって吹き付けてきたのだ。

「光の戦士よ。今日のところは、このファーティマを連れ帰らねばならん。だから......勝負は明日だ!」

 エスマーイルは、背後に闇のゲートを開き、

「明朝。この同じ草原で。光と闇の決着をつけようではないか! 楽しみにしておくぞ、光の戦士たち!」

 そう言い残すと、ゲートの中に消えていった。

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 第十五話「さよならなんて言わせない! ありがとうがいっぱい!」


 その夜。
 マリコルヌは、ブリジッタの部屋を訪れた。

 トン、トン。

 扉をノックすると、中から少女が顔を出す。

「なんですか? マリコルヌさまとは、お別れしたはずですが......」

 見るからに、嫌そうな表情だ。それでも、こうして対応してくれるということは、彼女は優しい少女なのだろう。

「どうしても、もう一度、君に会っておきたかったんだ」

「まあ、なんて未練がましい!」

 ブリジッタの表情が歪む。続いて、軽蔑し切った目で、

「マリコルヌさま。そういった言葉は、見目麗しい殿方が口にすれば、効果的かもしれませんが......。マリコルヌさまには、まったく似合いません。......タのくせに」

 マリコルヌは一瞬、なんだか心に響く単語を聞いた気がした。

「ブリジッタ、今......なんて......?」

「ブタのくせに、って言ったんですよ! このブタ! ブタのくせに! ブタのくせに私を口説いたり! ブタのくせに覗きをしたり!」

 ひょんなことから、スイッチが入ってしまったらしい。ブリジッタはマリコルヌを足蹴にし、マリコルヌは這いつくばって「生まれてごめん、ブタごめん」と連呼している。
 ああ、心優しき少女にこのような振る舞いをさせてしまうなんて、いったいマリコルヌとは、いかなる存在なのであろうか。
 しかも恐ろしいことに、マリコルヌの顔にもブリジッタの顔にも、悦楽の色が浮かんでいるのだ!
 ......それまで乙女特有の好奇心からコッソリ様子を伺っていた近隣の女子生徒たちは、みんな一斉に自室の扉をソッと閉じた。

########################

 同じ頃。
 ギーシュは、モンモランシーの部屋まで来ていた。

「なーに? 黙ってないで何か言いなさいよ」

 沈黙に耐えかねて、モンモランシーが口を開く。
 何か大事な話があるというから部屋に入れたのに、椅子に座ったきり、ギーシュは黙ってしまったのだ。

「......」

「もしかして、この間の覗きの一件? あれなら、もういいのよ。あなたの弁明、信じることにしたから」

 女子風呂覗き騒動に関しては、既にモンモランシーは、ギーシュから事の顛末を聞かされている。
 ギーシュは皆を止めるために同行し、皆が開けた穴を閉じている現場を押さえられ、『穴を開けている』と誤解されたのだという。
 とても信じられない話だ。いったい誰が信じるというのか。モンモランシーも最初はそう思ったが、その話をしている時のギーシュの表情や態度は、嘘を言っているものではなかった。だから結局、ギーシュを許すことにしたのである。
 さすがモンモランシー、浮気性のギーシュに悩まされ、ギーシュの下手な言い訳にも振り回されているうちに、嘘を嘘と見抜けるようになっていたのだ。ただしギーシュの嘘限定で。

「......はあ」

 これでは埒があかない、とモンモランシーはため息をついた。

「あなたの様子を見てると、たしかに、何かありそうだけど。でも、話しにくそうにも見えるわ。......今は話せない、というなら、また今度にしたら?」

「いや、今夜じゃなきゃダメなんだ」

 これには即答するギーシュだが、そこで口を閉ざしてしまい、やはり本題には入ろうとしない。
 そして。

「......モンモランシー。愛してる」

「な、なによいきなり!?」

 予想外の言葉に、モンモランシーはドキッとした。ギーシュの口から飛び出す言葉としては、『愛してる』は予想外でも何でもなく、むしろ挨拶くらいにありふれていたのだが、今この雰囲気で言われるとは思っていなかったのだ。

「愛してる」

「そんなこと言いに来たんじゃないでしょ! わかるのよ、私には。何か別の、とってもとっても大事な用件があるんでしょ? だったら......」

「モンモランシー。愛してる」

「やめてったら! そんな顔でそんなこと言われたら、私......」

 拒めなくなっちゃう、という言葉は、発声されなかった。彼女の唇を、彼の唇がふさいでしまったから。
 そして。
 恋人たちの夜は更けてゆく。

########################

 チュン、チュン......。

 小鳥もさえずる、爽やかな朝空の下。
 女子の寮塔から、中庭へと足を踏み出したのは、土メイジの少年、ギーシュ・ド・グラモン。
 同じく、男子寮のある本塔から出てきたのは、風メイジの少年、マリコルヌ・ド・グランドプレ。
 二人は顔を見合わせてニッと笑うと、互いに歩み寄り、

「では、行くか」

「うん」

 それっきり何も言わずに。
 肩を並べて歩き出した。
 ......いざ決戦の舞台へ。

########################

 魔法学院の外に広がる、辺り一面の草原。
 そこに、彼は立っていた。

「待っていたぞ、光の戦士たち!」

 エスマーイル。
 その存在感は、昨日と何も変わっていない。しかしギーシュもマリコルヌも、敵の気迫に押し負けることはなかった。

「......一晩の猶予は与えたのだ。愛する者への別れの挨拶も、きちんと済ませてきただろうな?」

「冗談言っちゃいけないよ!」

 エスマーイルの悪役然とした言葉に、真っ向から楯ついたのは、マリコルヌだった。

「僕には誰もいない! 待ってる人なんていない! それでも必ず生きて帰る! そう決めたんだ! もう決定なんだよお!」

 続いてギーシュも。

「わが友マリコルヌの言うとおりだ。今日の僕は絶好調でね。負ける気はしないよ。それに......僕には待っている女性(ひと)がいる。だから必ず生きて帰る!」

「はっはっは! 威勢だけは良いな! ならば、さあかかってこい!」

「ギーシュ、変身するめぽ! こいつを倒せば、すべてが終わるめぽ!」

「がんばるみぽ! 泣いても笑っても、これが最後の変身みぽ!」

 使い魔たちにも励まされ、二人は『へんきゅあ』に変身する!

「デュアル・ヘンタイ・ウェーブ!」

 天空から降臨した光のシャワーを浴びて、ギーシュとマリコルヌは、虹色の輝きに包まれて......。

「未来を照らす花開く大地のメイジ! ギーシュ・ザ・マックス・ハート!」

「羽ばたく空に勇気を運ぶ風のメイジ! マリコルヌ・ザ・スプラッシュ・スター!」

########################

「はあああああっ!」

 エスマーイルが両腕を振る。
 莫大な闇のエネルギーが二人に襲いかかるが、変身により向上した身体能力でその場に踏みとどまり、ギーシュもマリコルヌも攻撃に耐えきった。

「今度は......僕たちの番だ!」

 二人同時に大地を蹴り、エスマーイルに向かう。一瞬で間合いを詰めた二人は、ギーシュの連続殴打、マリコルヌの連続回し蹴りと、巧みな連係で攻め立てるが......。

「光の戦士の力......この程度か!」

 エスマーイルは全てガードした挙げ句、逆に腕を振るって、二人を弾き飛ばす!

「くっ!」

 吹き飛ばされた二人は、空中で器用にそれぞれ縦回転と横回転。攻撃の勢いを受け流して、ストンと大地に降り立った。

「マリコルヌ。敵は闇の力のかたまりと聞いていたが......肉弾戦も、なかなかやるもんだな」

「ギーシュ。やっぱり闇の力には、光の力そのものをぶつけるしかないね」

 つまり、必殺技だ。

「邪悪な力を包み込む、大地のバラを咲かせよう! ブラッディ・ローズ・アース・ブリザード!」

「純情童貞の情熱の風、受けてごらん! ヘンキュア・ウインディ・ストライク・カルテット!」

 母なる大地を象徴する、巨大な光の薔薇。
 熱い胸のうちを具現化した、四つの光の風球。
 ギーシュとマリコルヌの必殺技が、同時にエスマーイルに襲いかかった。
 しかし!

「この程度か! この程度の光に......今までの連中は破れてきたのか!?」

 エスマーイルは、左手で薔薇を、右手で四連球を受け止めて......。
 なんと押し戻してしまった!
 ギーシュとマリコルヌ、必殺技を放った直後で虚脱状態の二人に、おのれが放った巨大なエネルギーが跳ね返ってくる!

「うわーっ!」

########################

「ギーシュ、しっかりするめぽ!」

「マリコルヌ、起きるみぽ! 目を開けるみぽ!」

 倒れた二人は、ピクリとも動かなかった。もう使い魔の呼びかけも届かない。

「あきらめろ、光の妖精。もう光の戦士に戦う力は残っていない。......お前たちにも、それくらいわかるだろう?」

 エスマーイルの言うとおり。
 ギーシュからもマリコルヌからも、もはや光の力は、ほとんど感じられない。かろうじて生きてはいるようだが、この分では永くないかもしれない。
 ヴェルダンデとクヴァーシルは、顔を見合わせる。今まで戦い続けてくれた二人に、今、光の妖精として出来ることは......。

「......もう、あれしかないめぽ」

「......最後の手段みぽ」

 そして。
 二匹は、声を揃えて叫んだ。

「『へんきゅあ』に力をーっ!」

########################

 全身に光が満ちてくる。
 あれだけボロボロだったのに......。
 傷が癒され、力が回復する。
 いったい......何が起こったのだ?
 不思議な感覚に戸惑いながら。
 ギーシュとマリコルヌは、目を覚ました。

########################

 起き上がった二人の視界に入ってきたのは、憐れむような表情のエスマーイル。

「よみがえったか、光の戦士よ。だが、そんなちっぽけな妖精の光をもらったところで、今さら何が出来るというのだ?」

 エスマーイルの視線の先では、ヴェルダンデとクヴァーシルが転がっていた。エスマーイルにやられた......というのとは違う。
 この時、ギーシュとマリコルヌは悟った。ヴェルダンデとクヴァーシルは、彼らの光のエネルギーで二人を復活させたのだ、と。光の妖精にとっての命である光のエネルギーを、すべて二人に与えてしまったのだ、と。
 ならば。
 この戦い......絶対に負けられない!

「『ちっぽけな妖精』ではないぞ......」

 杖を構えながら。
 二人は、エスマーイルに反論する。

「ヴェルダンデは......」

「クヴァーシルは......」

 これだけは、どうしても言っておかなければ!

「......僕たちの大切な使い魔だった!」

 今や、二人の体は光り輝いていた。杖もフルーレのような形に変わり、虹色に煌めいていた。
 二人は、その杖を交差させながら掲げて......。

「二つの光を未来に向けて! ヘンキュア・デュアル・レインボー・エクスプロージョン!」

 振り下ろされた虹の杖から飛び出したのは、二つの巨大なエネルギー。 
 黒い土のエネルギーと。
 白い風のエネルギーと。
 二つの力が互いに渦を巻いて、光の奔流となって、敵に襲いかかる! 

「この土壇場において新必殺技だと!? 笑わせるな! この程度の技......一目で攻略してみせる!」

 迎え撃つエスマーイルの気迫。

「しょせんは二つのエネルギーの組み合わさったもの! ならば、ほどいてしまえばよいだけの話だ!」

 エスマーイルは、両腕をクロスさせて、この莫大なエネルギーを受け止めて......。
 渦の中心に両の手だけをねじ込み、そのまま強引に、交差させていた腕を左右に開いてゆく。

「うおおおおおおおおっ!」

 エスマーイルの腕が、左右に大きく伸び切った時。
 その左手には黒い光が、右手には白い光が、それぞれ握られていた。
 彼は、それを握り潰すことなく。

「そーれ、お返しだ!」

 ギーシュとマリコルヌめがけて投げ返す!
 そして。
 大爆発が巻き起こった。

########################

「さすがに終わったか......」

 遠方に倒れた二人を見下ろして、エスマーイルがつぶやく。
 だが。

「......ま、まだだ......」

 不屈の闘志で立ち上がってきたのは、ギーシュだった。
 彼は、左手でマリコルヌの右手をつかみ......。
 友を助け起こす。

「マリコルヌ。僕たちには、これしかないんだ」

「そうだね。使い魔から託された、大切な力だから。御主人様として、精一杯のことをやらなきゃ!」

 そして、もう一度。

「二つの光を友誼で結んで! ヘンキュア・デュアル・レインボー・エクスプロージョン......」

 今度は二人、手を繋いだまま。
 空いた方の手で掲げた杖を、同時に振り下ろす!

「......マックス・スプラッシュ!」

 吹き出した光の渦は、一見、さきほどと同じもの。だが、その光量はケタ違いだった。
 限界を超えて、光のしぶきを上げて。
 最大最後の必殺技が、エスマーイルに襲いかかる!

「多少威力を増したところで! 技の本質は変わらぬ!」

 エスマーイルは、前と同様に受け止めようとしたが......。

「ば、ばかな!? このパワーは......とても分解できない!」

 それでもエスマーイルは、闇の力のかたまりだ。簡単に光に呑まれたりはしない。

「ならば! わが闇の力をもって、相殺してくれようぞ!」

 エスマーイルは両手を突き出し、闇のエネルギーを放出した。
 属性の反するエネルギーとエネルギーとが、バチバチと音まで立ててぶつかりあう。
 拮抗する光と闇。
 ......いや。押されているのは光の方だった。
 ギーシュとマリコルヌが放ったエネルギーは、少しずつ押し戻されて......。
 しかし。

「負けてたまるか!」

「これは......僕たちだけの力じゃないんだ!」

 握ったその手に力をこめて。
 二人は、もう一度叫ぶ。

「ヘンキュア・デュアル・レインボー・エクスプロージョン・マックス・スプラッシュ!」

 技を放ちながら、二重に技を放つ形となったのだろう。
 光を、さらに光が覆って......。
 圧倒的なエネルギーが、闇を呑み込みながら、エスマーイルへと迫る!

「ばかな!? 信じられん!」

 傷つき弱り果てた光の戦士たちが、なぜ、これほど膨大なエネルギーを放つことが出来るのか。
 エスマーイルには理解不能だった。
 その時。
 迫り来る光の中に、エスマーイルは、光の妖精たち――ヴェルダンデとクヴァーシル――の幻を見た。
 瞬間、彼は悟ったような気がして......。

「これが......これが光の力だというのかーっ!」

 絶叫とともに。
 エスマーイルは、光の中で消滅した。

########################

 どこまでも続く青い空。
 光と闇の最終決戦があったことなどまるで嘘のような、澄みきった朝......。

「終わったね」

「ああ。終わった」

 二人の少年は、いつまでも草原に立ちすくんでいた。
 すると。

「ありがとうめぽ」

「本当にありがとうみぽ」

 二人は慌てて、声のもとへと駆け寄った。

「ヴェルダンデ! 生きていたのか!」

「よかった! もう死んじゃったかと思ったよ、クヴァーシル」

 それぞれ小さな使い魔を抱きかかえ、頬ずりをする。
 使い魔たちは、特に嫌がる素振りもなく、うっすらと目を開けて、

「二人のおかげで、この世界のバランスは保たれためぽ」

「世界は救われたみぽ。二人は英雄みぽ」

「そうだ、ヴェルダンデ! もっと褒めたまえ!」

「クヴァーシル、もっと嬉しそうに言ってよ! なんだか元気がないよ?」

 主人の言葉に、二匹の使い魔は小さく笑った。そして、少しの沈黙の後。

「......この世界から闇が消えた以上、光の妖精は、この世界にいられないめぽ」

「大きな光の力だけが残ってしまったら、それはそれで、世界のバランスを崩してしまうみぽ」

 今度は、ギーシュとマリコルヌが黙ってしまう番だった。
 二匹が今、告げた言葉の意味。
 それは、つまり。

「そんな!? では、ヴェルダンデたちは......光の世界へ帰るというのかね!?」

「嫌だよ! 僕、さよならなんて嫌だよ!」

 二匹は頭を振って、再び笑ってみせる。それは、なんとも弱々しい笑顔だった。

「安心するめぽ」

「さよならは必要ないみぽ」

「......?」

 ギーシュとマリコルヌが不思議そうな顔をすると、

「僕たちは、すべての光の力を、ギーシュたちに与えてしまっためぽ」

「もう帰る力も残ってないみぽ。もう......何もできないみぽ」

「エネルギー切れめぽ」

「だから......私たちは、この世界で永い永い眠りにつくみぽ」

「ありがとうめぽ」

「今まで......本当にありがとうみぽ」

「ギーシュ! 泣いちゃダメめぽ!」

「マリコルヌ! 私たちは......いつまでもいっしょみぽ!」

「だって、僕たちは......」

「私たちは......」

 ここで二匹は口を揃えて。

「......御主人様の......使い魔だから......」

 最後まで――口癖の語尾まで――言い切ることも出来ずに。
 ヴェルダンデとクヴァーシルは、もの言わぬ人形となった。

########################



 エピローグ「伝説はどこまでも! 永遠不滅! 行くよ女の子!」


 ヴェルダンデへ

 いつか君が、この手紙を読む日が来ると信じて。
 僕は、手紙を書き続けようと思う。

 君たちがいなくなっても、
 僕たちの生活は変わらない。
 学院の薔薇たるレディたちに囲まれ、
 朝露というナミダに困らされながらも、
 僕は華麗な毎日を過ごしているよ。

 最近では、また世界情勢も怪しくなってきた。
 今、女王陛下はロマリアを訪問なさっている。
 僕たち騎士隊にも、お声がかかるかもしれない。

 君たちと過ごした日々を忘れず、
 これからは一人のメイジとして、
 水精霊騎士隊(オンディーヌ)隊長として、
 おのれの正義を貫いてゆくつもりだ。
 
 いつか君が目覚める頃には、
 君が、そして僕が目ざした未来が、
 そこに広がっていることだろう。
 その礎となるべく、僕はがんばるよ......。

########################

 ヴェストリの広場に、杖と魔法の音が響き渡る。
 水精霊騎士隊(オンディーヌ)が、朝も早くから訓練に明け暮れているのだ。

「それではダメだ! その程度の攻撃では、実戦では通用しないぞ!」

 騎士隊は二つに分かれて、模擬戦を行っているらしい。それぞれ陣地に大きな土ゴーレムを構えているのは、総大将のつもりであろうか。
 そうした光景を、少し離れたベンチに座り、四人の少女たちが見守っていた。

「......何が騎士隊よ。どうせ、地に落ちた名誉を挽回、とばかりに頑張ってるんだろうけど......。あんなの、ちゃんばらごっこか陣取りゲームじゃないの」

 つまらなそうな声で意見を述べたのは、桃色の髪の少女、ルイズ。その様子に、キュルケがニヤリと笑って、

「あら。またサイトとケンカでもしたの?」

「またとは何よ! そもそも、ケンカなんかじゃないもん! サイトは私の使い魔なんだから、私の言うことには従わなきゃいけないの!」

「......ったく。これだから余裕のない女は......。あのねえルイズ、少しは殿方を泳がすのも大事なのよ?」

「冗談じゃないわ! 使い魔の不始末は私の責任になるのよ! あのバカ犬ったら! 女風呂を覗いたり! メイドとイチャイチャしたり!」

「まあメイドはともかく、たしかに覗きは良くないわね。あなたもそう思うでしょ?」

 ここでキュルケは、傍らの親友に同意を求めた。
 青い髪の小柄な少女、タバサ。
 会話にも参加せずにずっと本を読んでいるが、ここに座っているということは、彼女も騎士隊の訓練を見守っているということだ。この少女、ガリアで助け出されて以来、才人を『イーヴァルディの勇者』だと思って、彼の騎士を自認しているのであった。

「あら。珍しいこと言うのね」

 タバサはウンともスンとも言わず、表情すら変えなかったが、親友のキュルケには何か伝わったらしい。
 さらに、ここで思わぬところから才人擁護の声が上がった。

「でも......サイトは巻きこまれただけ、って聞いたわ」

 モンモランシーである。
 彼女はギーシュから、ちゃんと聞いているのだ。覗きに反対していた者がいたことも、才人は流されて連れていかれただけということも。

「えっ!? モンモランシーったら、そんな話信じてるの!? やあねえ、これだから純情乙女は......」

「嘘じゃないわよ! だってギーシュが......」

 モンモランシーは、真っ赤な顔でキュルケに反論しようとしたが、ふと我に返って、

「あら? あれ......何かしら?」

 彼女が指さした方向に、他の三人も視線を向ける。
 青い空をバックに、四匹の蝶が飛んでいた。透き通るような羽根を持ち、体全体が単色の蝶だ。ただし、それぞれ色は違う。
 一つはピンク。
 一つは赤。
 一つは黄色。
 そしてもう一つは水色。
 四匹の蝶は、四人の少女が座るベンチの方へ、フラフラと飛んできて......。

「あら!」

「まあ!」

 ピンクの蝶は、桃髪のルイズに。
 赤の蝶は、赤い髪のキュルケに。
 黄色の蝶は、金髪のモンモランシーに。
 水色の蝶は、青髪のタバサに。
 それぞれの体色と似た色の髪を持つ少女の指先にとまり、その羽根を休ませた。
 すると、蝶を追うように。
 白と茶色の謎の生き物が現れて、少女たちに告げるのであった。

「君たちは今日から『へんきゅあ4 She-She』として......」





(おわり)

(初出;「Arcadia」様のコンテンツ「チラシの裏SS投稿掲示板」[2012年8月])

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